1 00:00:01,000 --> 00:00:03,000 今日のテーマは 2 00:00:03,000 --> 00:00:06,000 「予想通りの不合理さ」です 3 00:00:06,000 --> 00:00:10,000 私が「不合理な行動」に興味を持ったのは 4 00:00:10,000 --> 00:00:13,000 ずいぶん前に病院でのこと 5 00:00:13,000 --> 00:00:17,000 私は酷い火傷を負ったことがあります 6 00:00:17,000 --> 00:00:20,000 病院で何年か過ごす間に 7 00:00:20,000 --> 00:00:23,000 色々な不合理さが目につき 8 00:00:23,000 --> 00:00:28,000 特に 火傷病棟で私の頭を悩ませたのは 9 00:00:28,000 --> 00:00:32,000 看護師たちの包帯の剥がし方です 10 00:00:33,000 --> 00:00:35,000 さて 今皆さんはバンドエイドを 11 00:00:35,000 --> 00:00:38,000 剥がそうとしています 12 00:00:38,000 --> 00:00:42,000 さっさと剥がして 短いが激しい痛みに耐えるか 13 00:00:42,000 --> 00:00:44,000 ゆっくり剥がして 14 00:00:44,000 --> 00:00:48,000 長めの穏やかな痛みに耐えるか 15 00:00:48,000 --> 00:00:51,000 どちらがよいでしょう? 16 00:00:51,000 --> 00:00:55,000 私の病棟の看護師たちの持論は 17 00:00:55,000 --> 00:00:58,000 さっさと剥がす方で かまえては引き剥がし 18 00:00:58,000 --> 00:01:00,000 かまえては一気に引き剥がしたのです 19 00:01:00,000 --> 00:01:04,000 私の火傷は全身の70%に及びましたから 20 00:01:04,000 --> 00:01:07,000 一時間はかかり 引き剥がす間の 21 00:01:07,000 --> 00:01:11,000 あの恐ろしい痛みが嫌でしたね 22 00:01:11,000 --> 00:01:13,000 だから ある時頼んでみました 23 00:01:13,000 --> 00:01:14,000 「もう少し 24 00:01:14,000 --> 00:01:16,000 ゆっくりと剥がしてよ 25 00:01:16,000 --> 00:01:21,000 2時間ぐらいはかけて 痛みを和らげられないの」と 26 00:01:21,000 --> 00:01:23,000 看護師が言うには 27 00:01:23,000 --> 00:01:27,000 自分たちは患者の扱い方を知っているし 28 00:01:27,000 --> 00:01:30,000 痛みを抑える方法もわかっている 29 00:01:30,000 --> 00:01:33,000 それに「患者」という言葉に 30 00:01:33,000 --> 00:01:35,000 「助言」や「邪魔」をする意味はないと 31 00:01:35,000 --> 00:01:38,000 私が知る限りでは 32 00:01:38,000 --> 00:01:41,000 このことは万国共通のようです 33 00:01:41,000 --> 00:01:45,000 とにかく 私にはどうにもできないまま 34 00:01:45,000 --> 00:01:48,000 看護師は同じように続けました 35 00:01:48,000 --> 00:01:50,000 それから3年後には退院して 36 00:01:50,000 --> 00:01:53,000 大学で勉強を始めました 37 00:01:53,000 --> 00:01:56,000 そこで面白いことを学びました 38 00:01:56,000 --> 00:01:58,000 自分が疑問に思うことを 39 00:01:58,000 --> 00:02:02,000 抽象的な質問の形に作り変え 40 00:02:02,000 --> 00:02:06,000 その質問の答を探ることで この世界について 41 00:02:06,000 --> 00:02:08,000 少しヒントが得られることを知ったのです 42 00:02:08,000 --> 00:02:10,000 だから試してみました 43 00:02:10,000 --> 00:02:11,000 私はその時もまだ 44 00:02:11,000 --> 00:02:13,000 火傷患者の包帯の剥がし方が気になっていました 45 00:02:13,000 --> 00:02:16,000 初めは あまりお金がなく 46 00:02:16,000 --> 00:02:20,000 万力を買ってきて 47 00:02:20,000 --> 00:02:24,000 研究室に人を集めて 指を間に挟ませ 48 00:02:24,000 --> 00:02:26,000 少しだけ締めてみました 49 00:02:26,000 --> 00:02:28,000 (笑) 50 00:02:28,000 --> 00:02:31,000 長めに締め付けたり 短めだったり 51 00:02:31,000 --> 00:02:33,000 痛みを強めては弱め 52 00:02:33,000 --> 00:02:37,000 しばらく続けたあとには少し間をあけて 53 00:02:37,000 --> 00:02:39,000 痛みを与えるたびに 54 00:02:39,000 --> 00:02:41,000 どう痛かったか? 55 00:02:41,000 --> 00:02:43,000 選ぶとすれば 56 00:02:43,000 --> 00:02:45,000 どちらの痛みを選ぶか?と聞きました 57 00:02:45,000 --> 00:02:48,000 (笑) 58 00:02:48,000 --> 00:02:51,000 しばらく続けましたよ 59 00:02:51,000 --> 00:02:53,000 (笑) 60 00:02:53,000 --> 00:02:57,000 研究費をもらえるようになってからは 61 00:02:57,000 --> 00:02:59,000 他の痛みも試してみました 62 00:02:59,000 --> 00:03:04,000 不快な音 電気ショック 拷問スーツまで 63 00:03:04,000 --> 00:03:08,000 そしてこれらの実験から 看護師たちが 64 00:03:08,000 --> 00:03:11,000 間違っていたことがわかりました 65 00:03:11,000 --> 00:03:14,000 看護師たちは あれだけの善意と 66 00:03:14,000 --> 00:03:16,000 経験を持ち合わせても 67 00:03:16,000 --> 00:03:20,000 予想通り間違うことを証明したのです 68 00:03:20,000 --> 00:03:23,000 私たちは 持続時間と痛みの強さを 69 00:03:23,000 --> 00:03:25,000 同じ計りで計っていないようです 70 00:03:25,000 --> 00:03:29,000 もしゆっくりと包帯を剥がしていたら 71 00:03:29,000 --> 00:03:31,000 ずっと痛みは軽減されていたでしょう 72 00:03:31,000 --> 00:03:34,000 より痛みの強い顔の方から脚の方へ 73 00:03:34,000 --> 00:03:36,000 包帯を剥がしていたら 74 00:03:36,000 --> 00:03:39,000 苦痛は軽い方へ向かうのですから 75 00:03:39,000 --> 00:03:40,000 恐らく痛みも和らいでいたでしょう 76 00:03:40,000 --> 00:03:42,000 また 途中で少し 77 00:03:42,000 --> 00:03:44,000 休憩を入れてもよかったようです 78 00:03:44,000 --> 00:03:46,000 改善の余地はありました 79 00:03:46,000 --> 00:03:49,000 しかし 看護師は知らなかったのです 80 00:03:49,000 --> 00:03:50,000 そこで私が考えたのは 81 00:03:50,000 --> 00:03:53,000 これは看護師に限ったことなのか 82 00:03:53,000 --> 00:03:56,000 もっと一般的に当てはまるのか ということです 83 00:03:56,000 --> 00:03:58,000 答えは後者です 84 00:03:58,000 --> 00:04:01,000 私たちは多くの間違いを犯します 85 00:04:01,000 --> 00:04:06,000 この不合理の具体例の一つが 86 00:04:06,000 --> 00:04:09,000 不正行為です 87 00:04:09,000 --> 00:04:11,000 ここで紹介する興味深い実験は 88 00:04:11,000 --> 00:04:13,000 昨今の混沌とした証券市場にも 89 00:04:13,000 --> 00:04:16,000 応用できます 90 00:04:16,000 --> 00:04:19,000 私がはじめに不正に興味を持ったのは 91 00:04:19,000 --> 00:04:21,000 2001年のエンロン事件です 92 00:04:21,000 --> 00:04:24,000 一体何が起こっていたのでしょう 93 00:04:24,000 --> 00:04:25,000 これは 94 00:04:25,000 --> 00:04:28,000 少数の悪い人間の行いなのか 95 00:04:28,000 --> 00:04:30,000 それとも人間に特有の 96 00:04:30,000 --> 00:04:34,000 誰もが犯しうる過ちだったのでしょうか 97 00:04:34,000 --> 00:04:38,000 そこで いつも通り 単純な実験を 98 00:04:38,000 --> 00:04:39,000 行ってみました 99 00:04:39,000 --> 00:04:42,000 皆さんに 紙を一枚配るとします 100 00:04:42,000 --> 00:04:46,000 簡単な誰もが解ける数学の問題20問です 101 00:04:46,000 --> 00:04:48,000 しかし 十分な時間がありません 102 00:04:48,000 --> 00:04:50,000 制限時間は5分で 103 00:04:50,000 --> 00:04:53,000 答案を回収します 一問正解につき一ドル払います 104 00:04:53,000 --> 00:04:57,000 平均正解数は4問 105 00:04:57,000 --> 00:04:59,000 平均4ドル渡しました 106 00:04:59,000 --> 00:05:02,000 次に 別の人たちにはわざと不正を働くよう仕掛けをします 107 00:05:02,000 --> 00:05:03,000 今度も 108 00:05:03,000 --> 00:05:05,000 紙を配り 5分後にこう言います 109 00:05:05,000 --> 00:05:06,000 「紙を破き 110 00:05:06,000 --> 00:05:09,000 ポケットか鞄にしまってください 111 00:05:09,000 --> 00:05:12,000 そして 何問正解したかを教えてください」 112 00:05:12,000 --> 00:05:15,000 正解は平均7問に増えました 113 00:05:15,000 --> 00:05:20,000 これは 少数の悪人が 114 00:05:20,000 --> 00:05:23,000 たくさんズルをしたのではなく 115 00:05:23,000 --> 00:05:26,000 実は 多くの人が少しズルをしたのです 116 00:05:26,000 --> 00:05:29,000 さて 経済学の理論では 117 00:05:29,000 --> 00:05:32,000 不正は単純な費用便益分析の一例です 118 00:05:32,000 --> 00:05:34,000 捕まる確率は? 119 00:05:34,000 --> 00:05:37,000 不正から得られる価値はいくらか? 120 00:05:37,000 --> 00:05:39,000 捕まったらどんな罰を受けるのか? 121 00:05:39,000 --> 00:05:41,000 これらを計りにかけます 122 00:05:41,000 --> 00:05:43,000 これが単純な費用便益分析です 123 00:05:43,000 --> 00:05:46,000 そして 罪を犯す価値があるかどうかを決めます 124 00:05:46,000 --> 00:05:48,000 そこで 次の実験では 125 00:05:48,000 --> 00:05:52,000 持ち逃げさせる金額を変えてみました 126 00:05:52,000 --> 00:05:53,000 いくらなら盗むか 127 00:05:53,000 --> 00:05:56,000 一問あたり 10セント 50セント 128 00:05:56,000 --> 00:05:59,000 1ドル 5ドル 10ドルと変えてみました 129 00:05:59,000 --> 00:06:03,000 皆さんは 金額が大きいほど不正が増える 130 00:06:03,000 --> 00:06:06,000 と思うでしょうが 実際は違いました 131 00:06:06,000 --> 00:06:09,000 多くの人がわずかだけ盗んだのです 132 00:06:09,000 --> 00:06:12,000 また 捕まる可能性は? 133 00:06:12,000 --> 00:06:14,000 ある人は紙を半分だけ破き 134 00:06:14,000 --> 00:06:15,000 証拠を残し 135 00:06:15,000 --> 00:06:17,000 ある人は丸々一枚破き 136 00:06:17,000 --> 00:06:20,000 ある人は粉々にして 部屋を出てゆき 137 00:06:20,000 --> 00:06:23,000 100ドルは入っているボウルからお金をとりました 138 00:06:23,000 --> 00:06:26,000 ここでは 捕まる可能性が低い方が 139 00:06:26,000 --> 00:06:29,000 不正が増えるようですが 同じく 違いました 140 00:06:29,000 --> 00:06:32,000 やはり 多くの人が少しだけ不正をしました 141 00:06:32,000 --> 00:06:35,000 つまり 経済的なインセンティブに反応しなかったのです 142 00:06:35,000 --> 00:06:36,000 このように 143 00:06:36,000 --> 00:06:41,000 人々が経済の合理性に見合わない行動をとる 144 00:06:41,000 --> 00:06:44,000 そこで何が起きているのか考えてみました 145 00:06:44,000 --> 00:06:47,000 私が考えるに そこには2つの力が働いています 146 00:06:47,000 --> 00:06:49,000 一つは 自分の姿を鏡に映し出し 147 00:06:49,000 --> 00:06:52,000 自尊心から 不正を抑えようとする力 148 00:06:52,000 --> 00:06:54,000 もう一つは 少しだけなら不正をしても 149 00:06:54,000 --> 00:06:56,000 自尊心はまだ保てるという力です 150 00:06:56,000 --> 00:06:57,000 つまり 151 00:06:57,000 --> 00:06:59,000 超えてはいけない一線を守りながら 152 00:06:59,000 --> 00:07:03,000 自分の評価を傷つけない程度に 153 00:07:03,000 --> 00:07:06,000 些細な不正から何かを得ようとするのです 154 00:07:06,000 --> 00:07:09,000 これを「私的補正因子」と言います 155 00:07:10,000 --> 00:07:14,000 この「私的補正因子」はどのようにテストできるでしょう? 156 00:07:14,000 --> 00:07:18,000 また「私的補正因子」を減らすにはどうしたらよいでしょうか? 157 00:07:18,000 --> 00:07:20,000 そこで人々を研究室に集め 158 00:07:20,000 --> 00:07:22,000 二つの課題を与えました 159 00:07:22,000 --> 00:07:23,000 まず 半分の人に 160 00:07:23,000 --> 00:07:25,000 高校時代に読んだ本を10冊 161 00:07:25,000 --> 00:07:28,000 他の人には「十戒」を思い出してもらうように指示します 162 00:07:28,000 --> 00:07:30,000 ここでもまた わざとズルをする細工をしました 163 00:07:30,000 --> 00:07:33,000 結果は 「十戒」を指示された人は 164 00:07:33,000 --> 00:07:35,000 誰も10個全ては思い出せませんでした 165 00:07:36,000 --> 00:07:40,000 でも わざとズルができるようにしたにも関わらず 166 00:07:40,000 --> 00:07:43,000 誰も不正を働かなかったのです 167 00:07:43,000 --> 00:07:45,000 これは 特に熱心な信者が 168 00:07:45,000 --> 00:07:46,000 ズルをしなかった訳でもなく 169 00:07:46,000 --> 00:07:48,000 「十戒」と無縁な人が 170 00:07:48,000 --> 00:07:49,000 よりズルをした 171 00:07:49,000 --> 00:07:51,000 訳でもありません 172 00:07:51,000 --> 00:07:55,000 「十戒」を思い出そうとした瞬間すでに 173 00:07:55,000 --> 00:07:56,000 不正はなくなったのです 174 00:07:56,000 --> 00:07:58,000 自称 無宗教者ですら 175 00:07:58,000 --> 00:08:02,000 聖書に手を置き 誓いをたてると 176 00:08:02,000 --> 00:08:04,000 不正を働く気はなくなったのです 177 00:08:06,000 --> 00:08:08,000 さて「十戒」は宗教的で 178 00:08:08,000 --> 00:08:10,000 教育現場には不向きですから 179 00:08:10,000 --> 00:08:12,000 倫理規定を使って実験を続けることにしました 180 00:08:12,000 --> 00:08:14,000 倫理規定に 181 00:08:14,000 --> 00:08:18,000 「私はここに この調査がMIT倫理規定の適用を受けることを理解しました」と 182 00:08:18,000 --> 00:08:21,000 署名させ それを破かせました 183 00:08:21,000 --> 00:08:22,000 この場合も不正はなくなりました 184 00:08:22,000 --> 00:08:24,000 しかし 面白いことにMITには倫理規定などはありません 185 00:08:24,000 --> 00:08:29,000 (笑) 186 00:08:29,000 --> 00:08:33,000 これは全て「私的補正因子」を減らすために起こったのです 187 00:08:33,000 --> 00:08:36,000 それでは「私的補正因子」はどのような時に増えるのでしょう 188 00:08:36,000 --> 00:08:38,000 はじめに 私はキャンパスを歩き回り 189 00:08:38,000 --> 00:08:41,000 6缶入りのコーラを様々な場所の冷蔵庫に置きました 190 00:08:41,000 --> 00:08:43,000 学部生用の共有冷蔵庫です 191 00:08:43,000 --> 00:08:46,000 私たちは「半生分のコーラ」と呼んでますが 192 00:08:46,000 --> 00:08:50,000 どれぐらい保つか調べてみたのです 193 00:08:50,000 --> 00:08:53,000 おわかりの通り それほど長くはありません 194 00:08:53,000 --> 00:08:57,000 しかし 代わりに6ドルをのせたお皿を 195 00:08:57,000 --> 00:09:00,000 同じように冷蔵庫にいれても 196 00:09:00,000 --> 00:09:01,000 一枚も無くならなかったのです 197 00:09:01,000 --> 00:09:04,000 され これではよい社会学実験と言えません 198 00:09:04,000 --> 00:09:07,000 そこで私が先ほど説明した実験を 199 00:09:07,000 --> 00:09:09,000 再度行ってみました 200 00:09:09,000 --> 00:09:12,000 今度は3分の1の人は 紙を私達に戻します 201 00:09:12,000 --> 00:09:15,000 また別の3分の1は 紙を破き 202 00:09:15,000 --> 00:09:16,000 私達の所へ来て 203 00:09:16,000 --> 00:09:19,000 「試験官 私はX問正解しましたから Xドルください」と言います 204 00:09:19,000 --> 00:09:22,000 他の3分の1の人は 紙を破き 205 00:09:22,000 --> 00:09:24,000 私達の所へ来て 206 00:09:24,000 --> 00:09:30,000 「試験官 私はX問正解しましたから X枚引換券をください」と言います 207 00:09:30,000 --> 00:09:33,000 つまり お金で支払うのではなく 別の物で支払いました 208 00:09:33,000 --> 00:09:36,000 その別の物をもらい 12フィートほど歩いて行って 209 00:09:36,000 --> 00:09:38,000 換金します 210 00:09:38,000 --> 00:09:40,000 直感的に考えてみてください 211 00:09:40,000 --> 00:09:43,000 職場から鉛筆を一本盗む時と 212 00:09:43,000 --> 00:09:45,000 ちょっと10セントほど小銭を盗むのでは 213 00:09:45,000 --> 00:09:47,000 どちらが罪悪感をより強く感じますか? 214 00:09:47,000 --> 00:09:50,000 この二つには大きな違いがあります 215 00:09:50,000 --> 00:09:53,000 現金ではなく引換券であったならば 216 00:09:53,000 --> 00:09:56,000 どう違うというのでしょうか? 217 00:09:56,000 --> 00:09:58,000 実際 不正は2倍に増えたのです 218 00:09:58,000 --> 00:10:00,000 ここで私が考えたのは 219 00:10:00,000 --> 00:10:02,000 この実験と証券市場の関連です 220 00:10:03,000 --> 00:10:07,000 もちろん 社会的な要素の強いエンロン事件のような 221 00:10:07,000 --> 00:10:10,000 大きな事件の解決にはなりません 222 00:10:10,000 --> 00:10:11,000 要するに 人は他人の振りをみているわけです 223 00:10:11,000 --> 00:10:13,000 事実 毎日ニュースをチェックし 224 00:10:13,000 --> 00:10:15,000 人々の不正を目撃します 225 00:10:15,000 --> 00:10:18,000 そこからどんな影響を受けるのでしょうか? 226 00:10:18,000 --> 00:10:19,000 そこで別の実験をしてみました 227 00:10:19,000 --> 00:10:22,000 大勢の学生を集めて実験協力謝金を 228 00:10:22,000 --> 00:10:23,000 先に渡しました 229 00:10:23,000 --> 00:10:26,000 全員 お金が入った封筒を手にします 230 00:10:26,000 --> 00:10:28,000 そして最後に 正解できなかった問題の数だけ 231 00:10:28,000 --> 00:10:32,000 お金を返すように言いました 232 00:10:32,000 --> 00:10:33,000 結果はさほど変わりません 233 00:10:33,000 --> 00:10:35,000 不正を働く機会があると 人々はそうします 234 00:10:35,000 --> 00:10:38,000 しかも 多くの人が少しだけズルをするのです 235 00:10:38,000 --> 00:10:41,000 ただ 今回の実験では偽物の学生を一人混ぜ 236 00:10:41,000 --> 00:10:45,000 30秒後に立ち上がらせ こう言わせます 237 00:10:45,000 --> 00:10:48,000 「全部正解したら どうしたらよいですか?」 238 00:10:48,000 --> 00:10:52,000 そして試験官は全て終わったなら そのまま帰るように言います 239 00:10:52,000 --> 00:10:53,000 これだけです 240 00:10:53,000 --> 00:10:57,000 さてこの偽物学生は 241 00:10:57,000 --> 00:10:59,000 グループの中に溶け込み 242 00:10:59,000 --> 00:11:01,000 誰も 演技をしていることは知りません 243 00:11:01,000 --> 00:11:05,000 そして もちろん皆真面目に不正を行うのです 244 00:11:05,000 --> 00:11:08,000 すると グループの他の人はどうするでしょう? 245 00:11:08,000 --> 00:11:11,000 もっとズルをするか しないか? 246 00:11:11,000 --> 00:11:13,000 結果はこうです 247 00:11:13,000 --> 00:11:17,000 実は 結果は着ているパーカーによって違いました 248 00:11:17,000 --> 00:11:19,000 つまり 249 00:11:19,000 --> 00:11:22,000 この実験をピッツバーグで行いましたが 250 00:11:22,000 --> 00:11:24,000 そこには二つの大学があります 251 00:11:24,000 --> 00:11:27,000 カーネギーメロン大学とピッツバーグ大学です 252 00:11:27,000 --> 00:11:29,000 実験の参加者はみな 253 00:11:29,000 --> 00:11:31,000 カーネギーメロン大学の学生です 254 00:11:31,000 --> 00:11:35,000 演技をしている学生がカーネギーメロンの学生の時 255 00:11:35,000 --> 00:11:37,000 実際 彼はそうでしたが 256 00:11:37,000 --> 00:11:41,000 彼はグループの一員であり 不正は増加しました 257 00:11:41,000 --> 00:11:45,000 しかし ピッツバーグ大学のパーカーを着てみたら 258 00:11:45,000 --> 00:11:47,000 不正は減ったのです 259 00:11:47,000 --> 00:11:50,000 (笑) 260 00:11:50,000 --> 00:11:53,000 これは大切なことです 考えてみて下さい 261 00:11:53,000 --> 00:11:55,000 学生が立ち上がった瞬間 262 00:11:55,000 --> 00:11:58,000 全員がズルをして帰っても良いという認識をもちました 263 00:11:58,000 --> 00:12:00,000 試験官が「全問終わったら 264 00:12:00,000 --> 00:12:02,000 帰ってよい」というので 皆帰ったのです 265 00:12:02,000 --> 00:12:05,000 つまり ここでもまた単に捕まる可能性が問題なのではありません 266 00:12:05,000 --> 00:12:08,000 これは不正してもよいかの判断の基準が問題なのです 267 00:12:08,000 --> 00:12:11,000 同じグループの人がズルをし それを見たならば 268 00:12:11,000 --> 00:12:15,000 同じメンバーとして ズルをしてもよいという気になります 269 00:12:15,000 --> 00:12:17,000 しかし その人が違うグループならば 最悪な人たち 270 00:12:17,000 --> 00:12:19,000 いや この実験には最悪な人など本当はいませんよ 271 00:12:19,000 --> 00:12:21,000 つまり 出来れば関係を保ちたくない人 272 00:12:21,000 --> 00:12:23,000 別の大学の学生であるとかだと 273 00:12:23,000 --> 00:12:26,000 急に 人々は正直になるわけです 274 00:12:26,000 --> 00:12:28,000 これは「十戒」の実験に似ていますが 275 00:12:28,000 --> 00:12:32,000 ズルをする人は減ったのです 276 00:12:32,000 --> 00:12:36,000 さて ここから何が学べるでしょう? 277 00:12:36,000 --> 00:12:39,000 まず 多くの人が不正をすることはわかりました 278 00:12:39,000 --> 00:12:42,000 しかも ほんの少しだけズルをします 279 00:12:42,000 --> 00:12:46,000 ところが モラルに少しでも触れたとたん 不正は減ります 280 00:12:46,000 --> 00:12:49,000 不正と少し距離が離れると 281 00:12:49,000 --> 00:12:53,000 例えばお金以外のものだと ズルは増えます 282 00:12:53,000 --> 00:12:55,000 そして周りの人がズルをしているのを見ると 283 00:12:55,000 --> 00:12:59,000 特に同じ仲間だと ズルは増えるのです 284 00:12:59,000 --> 00:13:02,000 これを 証券市場に当てはめてみると 285 00:13:02,000 --> 00:13:03,000 どうでしょうか 286 00:13:03,000 --> 00:13:06,000 多額のお金を他の何かで支払うと 287 00:13:06,000 --> 00:13:08,000 つまり現実を少し曲げて 288 00:13:08,000 --> 00:13:11,000 見るとどうなるでしょう 289 00:13:11,000 --> 00:13:14,000 この実験があてはまることが 290 00:13:14,000 --> 00:13:15,000 おわかりでしょう? 291 00:13:15,000 --> 00:13:16,000 少し現金から離れたとたん 292 00:13:16,000 --> 00:13:18,000 何がおこるのでしょう? 293 00:13:18,000 --> 00:13:21,000 株券だとか オプションだとか デリバティブとか 294 00:13:21,000 --> 00:13:22,000 土地担保証券だとかありますよね 295 00:13:22,000 --> 00:13:25,000 こうして非現金のものを使うと 296 00:13:25,000 --> 00:13:27,000 引換券ではないにしても 297 00:13:27,000 --> 00:13:29,000 現金からは何段階も離れているわけで 298 00:13:29,000 --> 00:13:33,000 長い目でみれば 人はよりズルをする傾向にあるのではないでしょうか? 299 00:13:33,000 --> 00:13:35,000 さらに このような他人の行動を見ることは 300 00:13:35,000 --> 00:13:38,000 社会環境にどう影響を及ぼすのでしょう? 301 00:13:38,000 --> 00:13:42,000 私はこれらの要因は全て証券市場では 302 00:13:42,000 --> 00:13:44,000 悪い方へ向かうと考えます 303 00:13:44,000 --> 00:13:47,000 一般的には 行動経済学では 304 00:13:47,000 --> 00:13:50,000 次のようなことが言えます 305 00:13:50,000 --> 00:13:54,000 私達は直観にかなり頼っていて 306 00:13:54,000 --> 00:13:57,000 多くの場合その直観は間違っています 307 00:13:57,000 --> 00:14:00,000 問題は そのような直観を省みるかどうかにあります 308 00:14:00,000 --> 00:14:02,000 自分たちが毎日の生活 ビジネス 309 00:14:02,000 --> 00:14:04,000 特に政策決定の場で 310 00:14:04,000 --> 00:14:07,000 直観をどう使っているか考えてみるのです 311 00:14:07,000 --> 00:14:10,000 例えば 教育制度だとか 312 00:14:10,000 --> 00:14:13,000 新しい証券市場を作る時や 313 00:14:13,000 --> 00:14:16,000 税制や社会福祉など 新しい政策を作る時です 314 00:14:16,000 --> 00:14:18,000 そして この直観を確かめる難しさは 315 00:14:18,000 --> 00:14:20,000 私自身がよく知っています 316 00:14:20,000 --> 00:14:22,000 病院に戻って看護師たちと話した時 317 00:14:22,000 --> 00:14:24,000 こんなことがありました 318 00:14:24,000 --> 00:14:27,000 包帯の剥がし方についてわかったことを教えると 319 00:14:27,000 --> 00:14:29,000 二つの面白い答えが返ってきました 320 00:14:29,000 --> 00:14:31,000 私が好きだった看護師のエティは まず 321 00:14:31,000 --> 00:14:35,000 看護師の気持ちを考えてないと言いました 322 00:14:35,000 --> 00:14:37,000 エティは「もちろんあなたの痛みは当然だけど 323 00:14:37,000 --> 00:14:39,000 看護師のことも考えてみて 324 00:14:39,000 --> 00:14:41,000 大好きな人の包帯を取る辛さを 325 00:14:41,000 --> 00:14:44,000 しかも何度 何度も繰り返し 326 00:14:44,000 --> 00:14:47,000 苦しめ続けるのは 私にとっても楽なことではなかった」と 327 00:14:47,000 --> 00:14:52,000 ところが それほど彼女を苦しめた理由は 328 00:14:52,000 --> 00:14:55,000 もっと興味深い別の点にあって 329 00:14:55,000 --> 00:15:00,000 「私は他人の直観が正しいと思ったことなどなく 330 00:15:00,000 --> 00:15:01,000 自分の直観が正しいと思った」と続けました 331 00:15:01,000 --> 00:15:03,000 もし自分の身に置き換えてみれば 332 00:15:03,000 --> 00:15:07,000 自分の直観が間違っていると思うのは相当に難しいことです 333 00:15:07,000 --> 00:15:10,000 そして 彼女が言うには 私が自分の直観を正しいと思ったように 334 00:15:10,000 --> 00:15:12,000 彼女も自分の直観を正しいと思い 335 00:15:12,000 --> 00:15:17,000 別の視点をもつのはほぼ不可能なことだったのです 336 00:15:17,000 --> 00:15:19,000 自分が間違っているかどうか考えもしなかった 337 00:15:19,000 --> 00:15:23,000 しかし 実際には これはよくあることです 338 00:15:23,000 --> 00:15:26,000 私達はあらゆることを強い直感を持って判断しています 339 00:15:26,000 --> 00:15:29,000 自分の能力や これから経済がどう動くか 340 00:15:29,000 --> 00:15:31,000 教師にいくら給料を払うか 341 00:15:31,000 --> 00:15:34,000 しかし この直観は確かめてみない限り 342 00:15:34,000 --> 00:15:36,000 改善の余地はないのです 343 00:15:36,000 --> 00:15:38,000 もしあの看護師が自分たちの直観に疑いをもつことがあれば 344 00:15:38,000 --> 00:15:40,000 私の病院生活はどれほど楽になっていたか 345 00:15:40,000 --> 00:15:41,000 自分の直感をより体系的に 346 00:15:41,000 --> 00:15:46,000 調べることができれば 物事はもう少し上手く運んでいたのではないでしょうか 347 00:15:46,000 --> 00:15:48,000 どうもありがとうございました