1
00:00:07,776 --> 00:00:09,581
典型的な英雄の冒険譚では

2
00:00:09,581 --> 00:00:11,720
主人公は冒険に出かけ

3
00:00:11,720 --> 00:00:13,150
大きな変化を経験し

4
00:00:13,150 --> 00:00:15,731
元々来た場所に凱旋します

5
00:00:15,731 --> 00:00:18,320
「アハトリー」というジャンルの
アイルランド神話では

6
00:00:18,320 --> 00:00:22,533
異世界への旅路は
後戻りのできないところで終わりを迎えます

7
00:00:22,533 --> 00:00:26,252
アイルランド神話では
様々な異世界が描かれますが

8
00:00:26,252 --> 00:00:29,751
最もよく知られているのは
オシーンの物語でしょう

9
00:00:29,751 --> 00:00:33,349
オシーンはフィン・マックールの息子で
フィアナという―

10
00:00:33,349 --> 00:00:35,141
異教徒の騎士団長でした

11
00:00:35,141 --> 00:00:37,349
オシーンはある日
お供と馬に乗っていると

12
00:00:37,349 --> 00:00:40,807
不死身の姫
ニアヴに出会います

13
00:00:40,807 --> 00:00:42,711
二人はひと目で恋に落ち

14
00:00:42,711 --> 00:00:45,248
ニアヴはオシーンを
自分の白馬に乗せて

15
00:00:45,248 --> 00:00:48,168
アイリッシュ海の端まで
馬を走らせました

16
00:00:48,168 --> 00:00:51,949
地平線へと向かうと
二人は金色のもやに包まれます

17
00:00:51,949 --> 00:00:55,828
ティル・ナ・ノーグと呼ばれる
輝かしい王国の岸辺にたどり着いたのです

18
00:00:55,828 --> 00:00:59,660
オシーンの時代より遙か昔
古代アイルランドを支配していた―

19
00:00:59,660 --> 00:01:02,717
トゥアハ・デ・ダナーン族の
ふるさとでした

20
00:01:02,717 --> 00:01:05,792
到着するやいなや
オシーンの望みはすべて叶えられます

21
00:01:05,792 --> 00:01:09,610
豪華な祝宴でニアヴと結ばれ
家族に迎え入れられました

22
00:01:09,610 --> 00:01:13,500
音楽を所望すれば
魅惑的な調べが聞こえ

23
00:01:13,500 --> 00:01:17,909
腹が空けば 香しい食べ物の載った
金色の皿が現れます

24
00:01:17,909 --> 00:01:22,560
オシーンは目に麗しい景色や
その名も知れぬ色彩に感嘆しました

25
00:01:22,560 --> 00:01:28,370
彼の周りでは 土地も人々も
変化することなく 完全無欠なままでした

26
00:01:28,370 --> 00:01:31,990
オシーンが知る由もなかったのは
ティル・ナ・ノーグが常若の国で

27
00:01:31,990 --> 00:01:35,802
時は止まったまま
人々は老いることがないということでした

28
00:01:35,802 --> 00:01:39,990
この新たな場所でも オシーンは
狩りや探検をしましたが

29
00:01:39,990 --> 00:01:44,429
常若の国では 不思議な
新しい無敵の力を手にしていました

30
00:01:44,429 --> 00:01:46,209
毎日 冒険から帰って

31
00:01:46,209 --> 00:01:51,350
ニアヴの腕に抱かれて眠ると
オシーンの傷は魔法のように消えました

32
00:01:51,350 --> 00:01:55,601
常若の国で オシーンは栄光と安楽を
欲しいままにしましたが

33
00:01:55,601 --> 00:01:59,500
フィアナとアイルランドでの冒険を
懐かしく思いました

34
00:01:59,500 --> 00:02:03,979
ティル・ナ・ノーグで３年暮らした後
彼はふるさとがとても恋しくなります

35
00:02:03,979 --> 00:02:06,771
里帰りの前に
ニアヴが彼に警告しました

36
00:02:06,771 --> 00:02:11,304
決して馬から下りて地面に
足をつけてはいけないというのです

37
00:02:11,304 --> 00:02:13,271
オシーンが
アイルランドの海岸に着くと

38
00:02:13,271 --> 00:02:16,597
まるで世界が
闇に包まれているようでした

39
00:02:16,597 --> 00:02:21,701
父親の宮殿があった丘の上には
草の生い茂る廃墟があるだけでした

40
00:02:21,701 --> 00:02:25,481
友や家族を呼ぶ声は
荒廃した壁にむなしく響きます

41
00:02:25,481 --> 00:02:30,253
恐ろしくなって オシーンが馬を走らせると
野良仕事をする農民に出会いました

42
00:02:30,253 --> 00:02:33,023
彼らは大きな岩をどかせようと
苦労していました

43
00:02:33,023 --> 00:02:34,571
ニアヴの警告を忘れて

44
00:02:34,571 --> 00:02:39,256
オシーンは馬から飛び降り
超人的な力で岩をどかせます

45
00:02:39,256 --> 00:02:42,092
群衆の歓声はやがて
叫び声に変わりました

46
00:02:42,092 --> 00:02:45,682
そこにいたはずの若者は
あごひげが地面まで伸びて

47
00:02:45,682 --> 00:02:47,853
膝からくずおれた老人へと
姿を変えていました

48
00:02:47,853 --> 00:02:50,474
彼はフィンとフィアナに
呼びかけましたが

49
00:02:50,474 --> 00:02:55,803
人々はその名を300年前の
昔話としてしか知りませんでした

50
00:02:55,803 --> 00:02:57,761
時はオシーンを裏切って

51
00:02:57,761 --> 00:03:02,724
人間の世界に戻ったことで
一気に老いてしまったのです

52
00:03:02,724 --> 00:03:04,354
アイルランド神話で

53
00:03:04,354 --> 00:03:08,443
常若の国が見つかったとされるのは
井戸の奥深くや

54
00:03:08,443 --> 00:03:10,602
地平線の先や

55
00:03:10,602 --> 00:03:13,012
洞窟の闇の中です

56
00:03:13,012 --> 00:03:16,755
しかし オシーンの物語を知る人々が
語る話は違っています

57
00:03:16,755 --> 00:03:22,604
白馬に乗った光り輝く姫が
遠くの波に揺られて

58
00:03:22,604 --> 00:03:26,254
悲劇の運命をたどった愛する人の帰りを
まだ待っているというのです