WEBVTT 00:00:00.952 --> 00:00:04.103 医療(ヘルスケア)に 「ケア」を取り戻しましょう 00:00:04.690 --> 00:00:08.511 私は過去15年間 医療分野で仕事をしてきました 00:00:08.535 --> 00:00:10.912 この分野に惹かれた理由のひとつに 00:00:10.936 --> 00:00:15.154 私たちの医療制度における 「ケア」への関心がありました 00:00:15.178 --> 00:00:16.517 より正確には 00:00:16.541 --> 00:00:19.154 ケアをする介護人の担う 計り知れない役割です NOTE Paragraph 00:00:20.173 --> 00:00:23.838 さて ここにいる皆さんの中に 自分は「介護人」だと言う方は? 00:00:26.473 --> 00:00:29.072 病気やケガや障がいを持つ人のために 00:00:29.096 --> 00:00:32.723 介護をしたことがある人は どれくらいいるでしょうか? 00:00:32.747 --> 00:00:34.873 自分もそうだという方は 手を上げてください 00:00:37.119 --> 00:00:38.531 全体の半分ほどですね 00:00:39.316 --> 00:00:41.626 今 手を挙げて下さった皆さんが 00:00:41.650 --> 00:00:43.814 介護に費やされた時間に 感謝します 00:00:43.838 --> 00:00:46.480 皆さんの行いは 非常に貴重なものです NOTE Paragraph 00:00:47.813 --> 00:00:50.204 私自身 かつては 介護を受ける側でした 00:00:50.868 --> 00:00:53.961 十代の頃 私はライム病にかかり 00:00:53.985 --> 00:00:57.066 18か月間 抗生物質による治療を 受けました 00:00:58.025 --> 00:01:00.048 私は何度も誤診され 00:01:00.521 --> 00:01:04.964 細菌性髄膜炎や線維筋痛症など 様々な診断を受けました 00:01:04.988 --> 00:01:06.554 医師にも分からなかったのです 00:01:07.141 --> 00:01:10.606 今日こうして皆さんの前に 私が立っていられるのは 00:01:10.630 --> 00:01:12.259 私の命を守ってくれた― 00:01:12.283 --> 00:01:15.200 粘り強く 熱心な ある介護人がいたからです 00:01:16.187 --> 00:01:18.155 その人はできることを すべてやってくれました 00:01:18.179 --> 00:01:21.651 長距離を運転して 治療センターを何軒も周り 00:01:21.675 --> 00:01:23.549 最良の治療法を探しました 00:01:24.276 --> 00:01:27.008 何よりも 決して諦めませんでした 00:01:27.032 --> 00:01:29.016 仕事や生活の質に至るまで 00:01:29.040 --> 00:01:32.208 様々な困難にぶつかった にもかかわらずです 00:01:32.867 --> 00:01:34.605 その人とは 私の父でした 00:01:34.629 --> 00:01:38.798 私が回復したのは ひとえに父の献身のおかげです NOTE Paragraph 00:01:39.631 --> 00:01:42.811 この経験から私は 患者の支援をするようになりました 00:01:43.478 --> 00:01:48.260 実情に目をこらせばこらすほどに 父がやってくれたようなサポートを 00:01:48.284 --> 00:01:50.594 多くの介護人が実践していると 分かりました 00:01:50.618 --> 00:01:53.993 そして医療制度で 不可欠な役割を果たしていたのです 00:01:54.686 --> 00:01:57.307 こう言っても 過言ではないはずです 00:01:57.331 --> 00:01:59.811 父のような 無償の介護人がいなければ 00:01:59.835 --> 00:02:02.027 私たちの医療制度や社会制度は 00:02:02.051 --> 00:02:03.373 瓦解するでしょう 00:02:04.148 --> 00:02:07.514 それにもかかわらず 無償の介護人は評価されていません NOTE Paragraph 00:02:08.828 --> 00:02:11.926 私は今 母を 遠距離で介護しています 00:02:12.687 --> 00:02:14.972 母は複数の慢性疾患を持っています 00:02:16.004 --> 00:02:19.787 私は 今 これまで以上に 介護人の直面する― 00:02:19.811 --> 00:02:21.886 差し迫った必要を 痛感しています 00:02:22.942 --> 00:02:25.126 高齢化社会や 00:02:25.150 --> 00:02:26.975 不安定な経済 00:02:26.999 --> 00:02:28.971 医療制度への圧迫 00:02:28.995 --> 00:02:31.932 長期的な介護を必要とするような 病気の増加に伴い 00:02:32.690 --> 00:02:35.408 家族の介護人の重要性と需要は 00:02:35.432 --> 00:02:36.764 かつてなく増大しています 00:02:37.886 --> 00:02:41.777 世界中にいる多くの介護人は 大切な人の世話をするために 00:02:41.801 --> 00:02:44.587 自らの身体的、経済的 心理的な健康を 00:02:44.611 --> 00:02:46.443 犠牲にしているのです 00:02:47.556 --> 00:02:49.956 介護人自身にも それぞれの限界と必要があり 00:02:49.980 --> 00:02:52.374 適切なサポートがなければ 00:02:52.398 --> 00:02:54.752 多くの人々が忍耐の限界を 迎えてしまうことでしょう 00:02:55.858 --> 00:02:59.451 かつては家族生活における 個人的な事柄だと見なされていましたが 00:03:00.132 --> 00:03:03.643 無償での介護は 世界中の医療や社会制度の 00:03:03.667 --> 00:03:06.988 目に見えない支柱と なっているのです NOTE Paragraph 00:03:08.469 --> 00:03:10.863 今この場所だけでも 多くの介護人がいることは 00:03:10.887 --> 00:03:12.203 すでに確認した通りです 00:03:13.031 --> 00:03:15.639 彼らはどんな人々で 何人くらい いるのでしょう? 00:03:16.217 --> 00:03:18.583 彼らが直面している困難とは 何なのでしょう? 00:03:18.607 --> 00:03:22.406 それ以上に どうすれば 彼らの存在が患者にとっても 00:03:22.430 --> 00:03:24.748 医療制度や社会にとっても 重要なものなのだという認識を 00:03:24.772 --> 00:03:25.930 確保できるでしょう? 00:03:27.067 --> 00:03:29.648 実に誰でも 介護人になり得るのです 00:03:30.357 --> 00:03:34.233 多発性硬化症を患った親を介護する 15歳の少女もいます 00:03:35.074 --> 00:03:37.978 フルタイムの仕事に就きつつも 00:03:38.002 --> 00:03:40.945 遠方に住む家族を介護する 40歳の男性もいます 00:03:41.623 --> 00:03:45.310 末期がんに冒された妻の 世話をする60歳の男性もいます 00:03:46.279 --> 00:03:49.414 アルツハイマー病を患う夫の 世話をしている― 00:03:49.438 --> 00:03:51.074 80歳の女性もいます NOTE Paragraph 00:03:51.997 --> 00:03:55.889 介護人が患者のために 行うことは様々です 00:03:55.913 --> 00:03:57.609 身の回りの世話もします 00:03:57.633 --> 00:03:59.641 着替えを手伝ったり 00:03:59.665 --> 00:04:01.210 食事をさせたり 00:04:01.234 --> 00:04:02.661 トイレに付き添ったり 00:04:03.260 --> 00:04:04.679 移動を手伝ったりします 00:04:05.356 --> 00:04:08.967 重要な医療に関わる世話を 行うこともあります 00:04:08.991 --> 00:04:13.938 介護人はしばしば 大切な人の症状やニーズについて 00:04:13.962 --> 00:04:16.851 時には 患者自身よりも よく分かっているからです 00:04:16.875 --> 00:04:20.453 患者に麻痺があったり 診断について混乱していることもあります 00:04:21.284 --> 00:04:22.834 そういった状況では 00:04:23.350 --> 00:04:27.031 介護人は患者の代弁者にもなります NOTE Paragraph 00:04:28.769 --> 00:04:30.966 さらに非常に重要なのは 00:04:31.631 --> 00:04:35.734 介護人が心理的なサポートも 行うということです 00:04:36.338 --> 00:04:38.313 病院の予約を管理したり 00:04:39.107 --> 00:04:40.831 家計面の管理をしたり 00:04:40.855 --> 00:04:44.108 日々の家事もこなします 00:04:45.018 --> 00:04:47.834 こうした困難は 無視することはできません 00:04:48.633 --> 00:04:52.079 現在 ヨーロッパ全体で 行われている介護の8割を 00:04:52.103 --> 00:04:55.866 1億人以上の介護人が支えています 00:04:56.617 --> 00:04:58.930 この数字が印象的であるにせよ 00:04:58.954 --> 00:05:03.388 介護人に対する認識の欠如を考慮すると おそらく本来の数字より小さいでしょう 00:05:03.412 --> 00:05:04.706 すでに確認した通り 00:05:04.730 --> 00:05:08.119 ここにいる多くの人が 自分を「介護人」と言ってよいものか 00:05:08.143 --> 00:05:10.222 よく分かっていませんでした 00:05:10.246 --> 00:05:12.858 多くの皆さんは 「看護師」などの 00:05:12.882 --> 00:05:14.803 医療の専門職の話だと 思ったでしょう NOTE Paragraph 00:05:15.602 --> 00:05:17.096 さらに驚くべきなのは 00:05:17.120 --> 00:05:20.838 介護人が社会にもたらす 様々な利益です 00:05:20.862 --> 00:05:24.774 2015年のオーストラリアでの例を ひとつお話ししましょう 00:05:25.607 --> 00:05:28.960 精神疾患を患う人々に 無償の介護人が 00:05:28.984 --> 00:05:31.012 提供する介護の年間価値は 00:05:31.036 --> 00:05:35.953 132億オーストラリアドルと 見積もられました 00:05:36.431 --> 00:05:39.974 これはオーストラリア政府が 精神医療に費やす年間予算の 00:05:39.998 --> 00:05:41.958 実に2倍近い金額です 00:05:41.982 --> 00:05:44.210 この数字を始めとした データが示すのは 00:05:44.234 --> 00:05:47.393 介護人たちが 明日介護の提供をやめたなら 00:05:47.417 --> 00:05:50.714 医療制度や社会制度は 瓦解するということです 00:05:52.168 --> 00:05:54.931 こうした何百万人もの 物言わぬ介護人の重要性が 00:05:54.955 --> 00:05:56.300 否定できないというのに 00:05:56.890 --> 00:05:58.938 彼らは概ね認識されていません 00:05:58.962 --> 00:06:01.918 政府や医療制度によっても 00:06:01.942 --> 00:06:03.381 私企業によってもです NOTE Paragraph 00:06:05.042 --> 00:06:09.277 さらに 介護人は 大きな個人的問題を抱えています 00:06:09.792 --> 00:06:13.791 多くの介護人は高額な出費や 経済的な困難に直面しうるのです 00:06:13.815 --> 00:06:16.901 フルタイムで働くことが できなかったり 00:06:16.925 --> 00:06:19.617 仕事を続けることが できなくなったりするためです 00:06:20.330 --> 00:06:21.530 多くの研究によると 00:06:21.554 --> 00:06:24.553 介護人は大切な人の世話をするために 自身の健康や 00:06:24.577 --> 00:06:26.580 健やかな生活を犠牲にしています 00:06:27.395 --> 00:06:31.050 多くの介護人が大切な人の世話に 非常に多くの時間を費やすために 00:06:31.074 --> 00:06:34.124 家族や人間関係が その犠牲になってしまいがちです 00:06:34.941 --> 00:06:36.629 多くの介護人の報告によると 00:06:36.653 --> 00:06:39.355 雇用主は介護人をサポートする 適切な方針を 00:06:39.379 --> 00:06:40.659 有していません NOTE Paragraph 00:06:41.157 --> 00:06:42.850 しかし 介護人への認識は 00:06:42.874 --> 00:06:45.180 世界中で改善しつつあります 00:06:45.718 --> 00:06:48.262 ほんの数年前には 00:06:48.286 --> 00:06:52.608 国際介護人団体連盟 (IACO) という団体が 00:06:52.632 --> 00:06:56.498 世界中の介護人団体を集めて 00:06:56.522 --> 00:06:58.631 体系的な方向性を示したり 00:06:58.655 --> 00:07:00.677 情報の共有を促したり 00:07:00.701 --> 00:07:04.271 国際レベルで介護人に関する啓発活動を 積極的に行いました 00:07:05.036 --> 00:07:09.350 私企業もまた介護人の状況を 認識し始めています 00:07:09.836 --> 00:07:12.101 誇らしいことに 介護人に関わるトピックへの 00:07:12.125 --> 00:07:14.754 私自身の取り組みと熱意が 功を奏して 00:07:14.778 --> 00:07:16.866 職場で手応えを得られました 00:07:17.612 --> 00:07:20.106 私の勤める企業は この問題に取り組んでおり 00:07:20.130 --> 00:07:22.884 雇用者と社会全体に向けた― 00:07:22.908 --> 00:07:25.787 例を見ないような枠組みを 発展させました 00:07:26.471 --> 00:07:28.900 目標は介護人を力づけること― 00:07:28.924 --> 00:07:31.089 介護人自身の健康と 健やかな生活を改善し 00:07:31.113 --> 00:07:33.699 生活によりよいバランスを もたらすことです NOTE Paragraph 00:07:34.875 --> 00:07:38.180 しかしながら こうした比較的珍しい取り組みを 00:07:38.204 --> 00:07:41.098 補うためには もっと多くのことが なされねばなりません 00:07:42.005 --> 00:07:44.914 私たちの社会は 医療の負担の増大に直面しており 00:07:44.938 --> 00:07:47.223 人口の高齢化や 00:07:47.247 --> 00:07:50.654 がんや慢性疾患の増加 00:07:50.678 --> 00:07:52.713 社会的格差の拡大など 00:07:52.737 --> 00:07:54.201 多くの問題があります 00:07:54.862 --> 00:07:56.726 こうした困難に立ち向かうには 00:07:56.750 --> 00:08:00.409 政策立案者は 従来の医療の在り方や 00:08:00.433 --> 00:08:01.781 雇用政策以外に目を向けて 00:08:02.418 --> 00:08:04.771 無償の介護人によるケアが 00:08:04.795 --> 00:08:07.861 介護の基盤を成していくのだと 認識する必要があります NOTE Paragraph 00:08:09.456 --> 00:08:11.763 人の介護をすることは 個人の選択であるべきです 00:08:12.644 --> 00:08:16.757 そして誰かの健やかな生活を 天秤にかけずとも行えるべきです 00:08:19.129 --> 00:08:22.962 真の意味で医療に 「ケア」を取り戻すには 00:08:23.671 --> 00:08:29.115 根本的かつ社会を巻き込んだ 構造の改革が必要です 00:08:30.013 --> 00:08:32.675 考え方を変えないことには これは達成できません 00:08:33.371 --> 00:08:35.194 今日から始めようではありませんか 00:08:36.182 --> 00:08:39.066 今日 世界中にいる 何千万人もの介護人のために 00:08:39.090 --> 00:08:41.210 変化の種を蒔くことが できるのです NOTE Paragraph 00:08:41.927 --> 00:08:43.500 皆さんに提案させてください 00:08:44.216 --> 00:08:45.616 今日 家に帰ったら 00:08:46.318 --> 00:08:48.642 あるいは 明日の朝に出社したら 00:08:48.666 --> 00:08:49.959 介護人を抱きしめてください 00:08:51.012 --> 00:08:52.216 彼らに感謝し 00:08:52.756 --> 00:08:54.588 少し手伝おうかと 申し出てください 00:08:55.284 --> 00:08:59.243 週に数時間 自分が介護を代わろうと 申し出るのもいいでしょう 00:09:00.260 --> 00:09:02.911 世界中の介護人が 評価されていると感じられたら 00:09:02.935 --> 00:09:05.744 彼らの健康と健やかな生活が改善し 00:09:05.768 --> 00:09:07.476 充足感が得られるばかりでなく 00:09:07.500 --> 00:09:10.890 彼らの介護を受ける人々の生活も また改善するのです NOTE Paragraph 00:09:11.531 --> 00:09:13.000 もっと互いへの「ケア」を NOTE Paragraph 00:09:13.484 --> 00:09:14.635 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:09:14.659 --> 00:09:17.682 (拍手)