「どんな人間でありたいか」
シンプルな問いですね
自覚していても いなくても
皆さんは毎日これに
行動を以って答えています
この問いほど
社会での成功の鍵を
握るものはありません
人の目にどう映り
人をどう扱うかが全てだからです
他人を尊重することによって
その人に自分は価値があり 大事にされ
話も聞いてもらえているという実感を与え
高めてあげるか
それとも 自分が取るに足りず
侮辱され 軽んじられ
疎外されていると感じさせ
押さえつけてしまうか
全て 自分がどういう人間で
あろうとするかで決まるのです
私は「無作法」が人に与える
影響を研究しています
「無作法」とは
横柄さや失礼のことです
無作法にあたる振る舞いは様々で
人をあざける 軽んじる
相手を傷つけるような
からかい方をする
不快な冗談を言う
会議中に携帯をさわるなど
ある人にとっては無作法でも
別の人には全く問題ないこともあります
例えば誰かに話しかけられている最中に
携帯をさわるのは
無礼だと感じる人もいれば
完全に許容範囲だと
考える人もいるでしょう
人によって全く異なるのです
完全に受け取る人次第であり
相手が失礼に感じるかどうかで決まります
本人はそんなつもりはなくても
相手にそう感じさせてしまうと
いいことはありません
22年以上前のこと 病院で
空気のよどんだ病室に入った瞬間を
今でも鮮明に覚えています
頑丈でたくましく精力的だった父が
むき出しの胸に電極をつけられ
ベッドに横たわる様子は
見るに忍びないほどでした
父をそこへ追いやったのは
仕事上のストレスでした
10年以上も
無作法な上司に
苦しめられていたのです
あんな無作法な人も珍しいと
当時は思っていました
しかし 数年もたたないうちに
私自身も何度となく
無作法の被害を受け 目撃しました
大学を出て初の就職先でした
1年間 毎日出社しては
同僚がこんなことを言うのを
耳にしていました
「バカじゃないか?
そんなやり方があるかよ」とか
「君の意見を聞いた覚えは
ないんだけど」とかです
当然 私は仕事を辞め
このような振る舞いの影響を
研究するため 大学院に進みました
そこでクリスティーン・ピアソンに
出会いました
クリスティーンの理論は
些細な無作法から いっそう深刻な問題が
生まれることもあるというものでした
攻撃性や暴力といった問題です
無作法が業績や収益に
悪影響を及ぼすという考えの下
私たちは研究を始め
目から鱗な結果が出ました
ビジネススクールを卒業し
様々な組織で働いている人々に
調査アンケートを送り
失礼な扱いや
敬意に欠ける扱い
または無神経な扱いを
受けた時のことについて
数行書いてもらい また
その時どう反応したかに関する
質問にも答えてもらいました
ある人は上司にこんな風に
けなされたそうです
「幼稚園児でもできる仕事だぞ」
部下の作った書類をチーム全員の前で
破り捨てた上司の話もありました
そして 無作法は相手のやる気を削ぐ
ということがわかりました
回答者の66%は以前よりも
努力をしなくなり
80%はその出来事を引きずって
時間を無駄にし
12%は会社を辞めたのでした
調査結果を発表した後
2つのことが起こりました
1つは会社組織からの問い合わせです
シスコはこの結果を見て
そのほんの一部を取り上げ
同社は控えめに見積もっても
無作法により
年1200万ドル相当の損失を
被っていると導き出しました
もう1つは
同じ分野の研究者たちに
「回答は自己申告だ
どうやって証明するのか
本当に仕事に支障が出るのか」と
言われたことです
私も興味があったので
アミーラ・エレズの協力を得て
無作法を受けた人と
受けなかった人を比較しました
すると 無作法を受けた人は
そうでない人に比べ
仕事に大きな支障が出るということが
判明しました
「まあ もっともなことだ」と
仰るかもしれません
「仕事に支障が出るのは
当然のことだろうね」と
では 当事者以外は
どうなのでしょう?
見聞きしただけの場合は?
つまり 目撃者です
目撃者も影響を受けるのか
気になりました
そこで研究を行いました
遅れてきた人に対して
実験者が失礼な態度を取る様子を
被験者5名が
目撃するというものです
実験者はこう言いました
「君 おかしいだろう
遅刻なんかして 無責任だ
恥ずかしくないのか
社会人失格じゃないかね」
他にも 少人数のグループで
あるメンバーが別のメンバーをけなすと
どうなるかを調べました
すると非常に面白い結果が出ました
目撃者の仕事の質も下がり
しかも ちょっとどころではなく
かなり下がったのです
無作法は風邪のようなもので
伝染するのです
皆 その周りにいるだけで
保菌者となってしまいます
仕事場だけの話ではありません
このウィルスは場所を選ばず
家庭やネット上 学校や
地域社会でも感染します
私たちの感情 やる気 仕事の質
そして他人への接し方に
影響を及ぼします
集中力に支障をきたしさえしますし
思考力も低下します
さらに この現象は
無作法を受けたり
目撃していなくても
無礼な言葉を目にするだけで
起こりうるのです
例を挙げて説明しましょう
被験者に単語のリストを与え
文を作ってもらいました
しかし 実は裏があって
被験者の半分は無礼さを連想させる
15単語を含むリストを与えられました
「無神経にも」「邪魔する」
「不愉快」「迷惑」などです
もう半分の被験者が与えられた
単語リストには
そういった言葉は
ひとつもありません
そうして出た結果は衝撃的でした
無礼さを連想させる単語を
与えられた人は
パソコン画面に表示された
目の前の情報を見逃す確率が
5倍にもなったのです
研究を続けた結果
無礼さを連想させる単語を
目にした人のほうが
意思決定や
回答の記録が遅かったうえに
ミスも著しく多かったのです
特に 生死を分ける状況では
一大事につながることもあります
医師のスティーブが
同僚の医師について教えてくれました
いつも横柄な態度で
目下の職員や看護師に対しては
特にひどかったそうです
ある時 この医師が
医療チームを怒鳴りつける
ということがありました
そして その直後に
チームは患者への投薬量を
間違えてしまいました
正しい情報は目の前の図表に
書いてあったのに
どういうわけかチーム全員が
見過ごしてしまったのでした
集中力や状況把握力に欠けていて
情報を素通りしてしまったらしいのです
単純なミスだと思いますよね
ところが患者は亡くなりました
また イスラエルの研究者が
実証したのですが
無礼な振る舞いが起こった場に
居合わせた医療チームは
診断行為はおろか
医療処置の質まで
ことごとく下がったのです
主な原因は 無礼な言動に
遭遇した医療チームが
情報の共有に消極的になり
仲間に協力を
求めなくなったためでした
医療の場だけでなく
あらゆる業界で起こっていることです
では 無作法がそこまで有害ならば
なぜ未だに こんなにも
蔓延しているのでしょうか
疑問に思ったので
これについても調査しました
最大の原因はストレスです
心に余裕がないのです
人々に礼儀が足りない
もう1つの理由は
礼儀正しく 感じ良く
振る舞うことに疑問を覚え
むしろ問題だとさえ捉えているからです
そんな態度では
リーダーらしく見えないのではとか
「お人好しは損をする」
などと思っているのです
「嫌なやつが出世する」
とも言いますね
(笑)
無理もない考え方です
それを体現したような
一部の人たちの話ばかりが
日々の話題に上るとすれば
なおさらです
でも 長期的視点では
結果は逆なのです
センター・フォー・クリエイティブ・
リーダーシップ在籍当時の
モーガン・マッコールと
マイケル・ロンバルドによる
綿密な研究で明らかになった
「経営陣が犯す最大の過ち」とは
無神経で 心ない 高圧的な態度を
取ることでした
無礼な言動にかかわらず
例外的に成功する人はどこにでもいます
しかし 遅かれ早かれ
無作法な人々のほとんどには
ツケが回ってきます
無作法な経営者の場合
弱い立場に置かれたときや
何かを必要とするときに
報いを受けます
誰も力になってくれないでしょう
では いい人の場合は?
礼儀正しい人は報われるのか?
そうなのです
あと 礼儀正しさとは
嫌な人でないというだけではありません
人を押さえつけないことと
高めてあげることは別物です
真に礼儀正しい人は
些細なことに気を使います
笑いかけたり
廊下で挨拶したり
人の話にしっかりと
耳を傾けたり などです
自分の意見を
曲げる必要はありません
人と対立したり 反対意見を言ったり
批判してもいい
敬意をもって 礼儀正しく
接すればいいのです
「徹底的な率直さ」とも
呼ばれる態度です
相手個人を思いやりながら
率直に批判することです
そう 礼儀正しさは報われるのです
生命工学の会社で
同僚と共に発見したのは
礼儀正しい印象を与える人は
人の2倍 リーダー視される傾向があり
仕事の質も著しく高いことです
礼儀正しさが報われるという理由は
重要人物 そして影響力を持つ人物に
見られるからです
主要な特質が2種類入った
珍しい組み合わせです
「温かく かつ有能な人」
「親しみやすく かつ頭のいい人」
言い方を変えると 礼儀正しさとは
他人の意欲を引き出すだけの話ではなく
自分の評価にも関わるのです
礼儀正しい人ほど
リーダー視される傾向にあり
仕事の質も高く
温かく有能であると見られます
しかし 礼儀正しさの恩恵は
さらに広い次元に及び
リーダーシップに関連する
最も重要な問いのひとつに直結します
人々がリーダーに
一番求めているものは何か です
世界各地の社会人
2万人からデータを集めたところ
答えはシンプルでした
「敬意」です
認められることや
感謝されることよりも
有用なフィードバックや
学びの機会よりも
敬意を込めた扱いのほうが
重要であるという結果でした
敬意を受けていると
感じる人のほうが
健康的で 懸命に働き
組織に留まる可能性が高く
業務に能動的に携わるのです
では どこから始めましょう
人を高め 敬意を感じられるように
してあげるにはどうしたらいいでしょう
ありがたいことに
大きな方向転換は必要ありません
ちょっとしたことで
大きな違いを生み出せます
私自身が実感したのは
お礼を言ったり
成果を共有したり
しっかり話を聞いてあげたり
謙虚な態度で質問したり
相手の存在を認め
笑いかけたりすると
効果があるということです
オシュナー・ヘルスシステムの
前CEOパトリック・クウィンランが
同社が実践する「10-5の法則」の
効果について語ってくれました
誰かの10フィート(3メートル)
圏内に入ったら 目を合わせ
にっこりします
5フィート(1.5メートル)
圏内で挨拶します
この礼儀正しさが社内に広まり
患者の満足度が上がり
他の患者への紹介も増えたそうです
礼儀正しさと敬意は
組織の業績向上に役立ちます
友人のダグ・コナントが2001年に
キャンベルスープ社のCEOを引き継いだ時
同社の市場占有率は
半分に減ったばかりでした
売り上げは落ち込み
たくさんの従業員が
一時解雇されたばかりで
ギャラップ社の担当者が
これまで調査した会社の中でも
社員の熱意は最低だと
報告したほどでした
ダグが就任初日に出社すると
本社の周辺に張り巡らされている
鉄条網が目に入りました
駐車場には
監視塔までありました
まるで軽警備の刑務所のよう
だったそうです
不健全な空気だった と
ダグは5年で
状況を逆転させました
そして9年で 同社は
史上最高の業績を更新し続け
「働きたい企業 第1位」など
次々に賞を獲得しました
ダグがとった方法は
まず初日に 従業員たちに
自分が掲げる業績目標は高いが
礼儀正しさを以って
達成するのだと語りました
それを自分でも実践し
配下のリーダーたちにも求めました
ダグにとってそれは
「仕事に厳しく 人には優しく」の
姿勢に尽きるということでした
また 全てが「接点」次第である—
つまり従業員との
日々の関わり方にかかっており
その場が 廊下であれ 食堂であれ
会議であれ同じことだと
ダグが 接点ごとに
毎回うまく対応すれば
従業員は自分の価値を認められていると
感じるわけです
他にも 従業員たちに
重要感を持たせ
一人一人を見ているのだと示すため
ダグは従業員宛ての感謝状を
3万通以上 手書きしました
これが他のリーダーたちの
手本となりました
リーダーには このような接点が
1日400回程度あります
大多数の接点は時間を取りません
1回2分以内です
大事なのは毎回毎回
機転をきかせ 心を配ることです
礼儀正しさは相手を高めます
その人がさらに貢献し
ベストの状態で働けるよう促します
無作法は 周りや周りのパフォーマンスを
蝕んでいきます
無作法が起こっている場にいるだけでも
その人の可能性を奪ってしまいます
私が自分の研究から理解しているのは
人々が礼儀正しく振る舞う環境であるほど
生産性や創造性 そして
親切度や幸福度や健康度が向上します
改善は可能です
私たち一人一人が
もっと心を配り
周りの人を高めてあげられるよう
行動に移せばいいのです
それが職場であれ
家庭であれ オンラインであれ
学校であれ
地域社会であれ同じです
一回一回のやりとりごとに
考えてみてください
「私はどんな人間でありたいのだろうか」
無作法の蔓延に終止符を打ち
礼儀正しさを広めていきましょう
きっと実を結ぶはずです
ありがとうございました
(拍手)