1 00:00:00,708 --> 00:00:03,221 打ち明けますが 2 00:00:03,571 --> 00:00:06,155 私は最近ようやく 車の運転を覚えました 3 00:00:06,695 --> 00:00:08,499 とても大変でした 4 00:00:09,125 --> 00:00:11,736 脳が老化したせいではありません 5 00:00:12,196 --> 00:00:14,778 初めて運転を習った時 どんなだったか覚えていますか? 6 00:00:15,008 --> 00:00:18,383 やることのすべてが意識的で 意図的だったことでしょう 7 00:00:19,208 --> 00:00:22,570 私の場合 教習から帰宅すると 精神的に疲労困憊していました 8 00:00:23,320 --> 00:00:26,905 認知科学者の立場からすると その理由は明白で 9 00:00:26,905 --> 00:00:30,791 脳の「実行機能」を たくさん使ったからです 10 00:00:31,375 --> 00:00:34,276 実行機能は私たちの持つ 驚くべき能力で 11 00:00:34,276 --> 00:00:37,369 自分の思考や感情や行動を 12 00:00:37,369 --> 00:00:39,388 意識的に制御することで 13 00:00:39,388 --> 00:00:43,061 「自動車の運転を覚える」といった 目的を達成します 14 00:00:43,061 --> 00:00:46,030 習慣を断ち切ったり 衝動を抑制したり 15 00:00:46,030 --> 00:00:49,153 計画を立てたりしなければ いけない時に使います 16 00:00:49,708 --> 00:00:52,925 しかし 一番はっきりわかるのは 何かおかしなことになった時です 17 00:00:53,250 --> 00:00:56,655 間違ってシリアルにオレンジジュースを かけてしまったことはありませんか? 18 00:00:56,655 --> 00:00:58,738 (笑) 19 00:00:58,738 --> 00:01:00,655 あるいはフェイスブックを見始めて 20 00:01:00,655 --> 00:01:02,843 打合せを忘れていたことに ふと気づくとか? 21 00:01:02,843 --> 00:01:04,155 (笑) 22 00:01:04,155 --> 00:01:05,821 もっとよくありそうなのでは 23 00:01:05,821 --> 00:01:08,530 仕事帰りに ある店に寄る つもりでいたのに 24 00:01:08,530 --> 00:01:11,612 何も考えずに いつも通り まっすぐ帰宅してしまうとか? 25 00:01:11,612 --> 00:01:13,613 (笑) 26 00:01:13,613 --> 00:01:16,030 そんなことは誰にも経験があります 27 00:01:16,030 --> 00:01:17,988 うっかりしていたなどと言いますが 28 00:01:17,988 --> 00:01:19,373 実際に起きているのは 29 00:01:19,373 --> 00:01:22,558 実行機能が働かなかった ということです 30 00:01:23,625 --> 00:01:27,957 毎日の生活のあらゆる場面で 実行機能は使われているのです 31 00:01:27,957 --> 00:01:29,846 過去30年にわたる研究で 32 00:01:29,846 --> 00:01:33,318 実行機能の水準が 幼年期以降の 様々な良いことの 33 00:01:33,318 --> 00:01:35,568 予兆になることが分かりました 34 00:01:35,568 --> 00:01:40,065 社交能力や 学業成績 精神的 身体的な健康 35 00:01:40,065 --> 00:01:42,030 収入 貯蓄 36 00:01:42,030 --> 00:01:44,247 犯罪を犯さないことまで 37 00:01:44,247 --> 00:01:46,321 すごいですよね? 38 00:01:46,321 --> 00:01:47,988 ですので私のような研究者が 39 00:01:47,988 --> 00:01:51,238 実行機能を理解し 良くする方法を 探りたいと思うのに 40 00:01:51,238 --> 00:01:53,668 なんの不思議もないでしょう 41 00:01:55,167 --> 00:02:00,302 最近では自己啓発の分野で 実行機能がすごい流行語になっています 42 00:02:01,042 --> 00:02:04,405 脳トレiPhoneアプリや コンピュータゲームや 43 00:02:04,405 --> 00:02:07,141 チェスなどを使い 特定の方法で練習することで 44 00:02:07,141 --> 00:02:09,802 実行機能は高められるのだと 45 00:02:10,250 --> 00:02:11,681 また研究者たちは 46 00:02:11,681 --> 00:02:14,587 実行機能や 知能などの関連能力が 47 00:02:14,587 --> 00:02:17,836 実験室内で鍛えられないものか 試みています 48 00:02:19,333 --> 00:02:21,043 でも私に言わせると 49 00:02:21,043 --> 00:02:24,430 このような実行機能の考え方は すべて間違っています 50 00:02:24,780 --> 00:02:28,033 脳トレは 広い意味での実行機能を 高めはしません 51 00:02:28,363 --> 00:02:31,425 なぜなら脳トレは実行機能の 限られた部分を訓練するだけで 52 00:02:31,613 --> 00:02:36,146 私たちが実行機能を使う 現実世界の状況とは隔たたりがあるためです 53 00:02:36,875 --> 00:02:39,738 スマホの実行機能訓練アプリは 習得できたとしても 54 00:02:39,738 --> 00:02:43,338 週に2回 オレンジジュースを シリアルにかけ続けることでしょう 55 00:02:43,384 --> 00:02:44,655 (笑) 56 00:02:44,655 --> 00:02:47,104 もし実生活において 意味があるような形で 57 00:02:47,104 --> 00:02:49,405 実行機能を向上させたいのなら 58 00:02:49,405 --> 00:02:53,306 それが状況にどう影響されるかを 理解する必要があります 59 00:02:54,083 --> 00:02:55,696 どういうことか説明しましょう 60 00:02:55,696 --> 00:02:57,472 幼児の実行機能を 61 00:02:57,472 --> 00:03:00,321 実験室で測定する 素晴らしい試験に 62 00:03:00,321 --> 00:03:03,292 「次元変化カード分類課題」(DCCS) があります 63 00:03:04,000 --> 00:03:07,505 この課題では 幼児はある規則によって カードを仕分けていきます 64 00:03:07,505 --> 00:03:08,988 例えば形です 65 00:03:08,988 --> 00:03:11,420 慣れるまで それを何度も繰り返します 66 00:03:11,660 --> 00:03:15,151 次に 同じカードを 違う方法で仕分けるよう 67 00:03:15,151 --> 00:03:16,863 指示されます 68 00:03:16,863 --> 00:03:18,548 例えば色です 69 00:03:19,083 --> 00:03:22,321 幼児はこの作業に苦戦します 70 00:03:22,321 --> 00:03:25,946 3歳とか4歳の幼児は どう仕分けるかを何度教えても 71 00:03:25,946 --> 00:03:29,453 以前の方法で 仕分け続けるのです 72 00:03:30,125 --> 00:03:33,321 [映像](女性)青ならここに入れて 赤ならこちらに入れてね 73 00:03:33,321 --> 00:03:34,767 はい 青ですよ 74 00:03:35,083 --> 00:03:37,363 上手ね じゃあ次は 別のゲームをしましょうね 75 00:03:37,363 --> 00:03:39,613 色分けのゲームは もうおしまいにします 76 00:03:39,613 --> 00:03:41,530 今度は形分けのゲームをしましょうね 77 00:03:41,530 --> 00:03:42,821 形分けゲームでは 78 00:03:42,821 --> 00:03:46,071 星の形ならここに入れて トラックならこちらに入れてね いい? 79 00:03:46,071 --> 00:03:48,155 星はこっち トラックはこっち 80 00:03:48,155 --> 00:03:49,866 星はどちらに行くのかな? 81 00:03:50,667 --> 00:03:52,238 トラックはどっちかな? 82 00:03:52,238 --> 00:03:53,530 そう その通り 83 00:03:53,530 --> 00:03:55,863 星はこっち トラックはこっちね 84 00:03:55,863 --> 00:03:57,368 じゃあトラックよ 85 00:03:58,542 --> 00:04:00,363 (笑) 86 00:04:00,363 --> 00:04:02,655 星はこっち トラックはこっちよ 87 00:04:02,655 --> 00:04:04,112 はい 星よ 88 00:04:05,208 --> 00:04:07,571 (笑) 89 00:04:07,571 --> 00:04:09,713 (サビーン)抜け出せないんです 90 00:04:09,713 --> 00:04:13,613 あの女の子が実行機能を 活用できていないのは明白です 91 00:04:13,613 --> 00:04:14,905 重要な点は 92 00:04:14,905 --> 00:04:17,543 この課題について あの子を訓練すれば 93 00:04:17,543 --> 00:04:19,696 最終的には改善されるでしょうが 94 00:04:19,696 --> 00:04:21,297 それで実験室の外でも 95 00:04:21,297 --> 00:04:23,810 実行機能が改善されるかと言うと 96 00:04:24,280 --> 00:04:27,738 答えはノーで 現実世界では 色と形を切り替えるより 97 00:04:27,738 --> 00:04:31,238 ずっと複雑なことに 実行機能を 使わなければなりません 98 00:04:31,238 --> 00:04:34,238 足し算から 掛け算に切り替える 99 00:04:34,238 --> 00:04:36,530 遊びから お片付けに切り替える 100 00:04:36,530 --> 00:04:39,765 自分の気持ちでなく 友達のことを考えるよう 切り替えるという具合に 101 00:04:40,405 --> 00:04:43,887 そして現実世界での成功は どれくらいやる気があるかとか 102 00:04:43,887 --> 00:04:47,238 仲間がどうしているか といったことにも依存します 103 00:04:47,238 --> 00:04:51,293 また特定の状況下で 実行機能を使う際に取る戦略も 104 00:04:51,293 --> 00:04:53,625 成否に影響します 105 00:04:54,667 --> 00:04:58,580 ですので状況が重要であることを 強調したいのです 106 00:04:59,250 --> 00:05:01,988 私の研究から1例を挙げましょう 107 00:05:01,988 --> 00:05:06,405 最近私は 子供たちの集団に対して 古典的なマシュマロ実験を行いました 108 00:05:06,405 --> 00:05:08,665 「満足遅延耐性」を測定する実験で 109 00:05:08,665 --> 00:05:12,059 多くの実行機能を必要とするだろう とされているものです 110 00:05:12,708 --> 00:05:14,571 この試験をご存知かも知れませんが 111 00:05:14,571 --> 00:05:16,613 基本的に子どもは選択肢を与えられます 112 00:05:16,613 --> 00:05:18,946 今すぐ1個のマシュマロをもらうか 113 00:05:18,946 --> 00:05:22,985 私が別の部屋にマシュマロを 取りに行っている間 待っていて 114 00:05:22,985 --> 00:05:25,432 マシュマロを2個もらうか という選択です 115 00:05:25,432 --> 00:05:29,446 ほとんどの子どもは 2個目のマシュマロも欲しいのですが 116 00:05:29,446 --> 00:05:32,820 重要なポイントは 「どのくらい待てるのか」です 117 00:05:32,820 --> 00:05:33,821 (笑) 118 00:05:33,821 --> 00:05:37,908 状況の影響を見るために 私は一捻り加えました 119 00:05:38,750 --> 00:05:41,738 「あなたはグループの一員よ」と 教えるんです 120 00:05:41,738 --> 00:05:43,405 例えば緑グループとか 121 00:05:43,405 --> 00:05:46,241 緑のTシャツを 着させさえしました 122 00:05:46,571 --> 00:05:50,696 そして言います「あなたの緑グループは みんなマシュマロを2個もらうまで待ったのよ 123 00:05:50,696 --> 00:05:53,071 でもオレンジグループの子たちは 124 00:05:53,071 --> 00:05:54,363 待たなかったの」 125 00:05:54,363 --> 00:05:55,892 あるいは 逆のことを言います 126 00:05:55,892 --> 00:05:58,669 「あなたのグループは マシュマロ2個もらうまで待たなかったけど 127 00:05:58,669 --> 00:06:00,155 別のグループは待ったの」 128 00:06:00,155 --> 00:06:02,363 そして子どもを1人にして 部屋に残し 129 00:06:02,363 --> 00:06:05,338 ウェブカメラを通して どのくらい待てるかを観察しました 130 00:06:05,798 --> 00:06:09,863 (笑) 131 00:06:09,863 --> 00:06:11,993 その実験で分かったのは 132 00:06:11,993 --> 00:06:15,920 自分はマシュマロ2個のグループだと 思っている子どものほうが 133 00:06:15,920 --> 00:06:19,043 待つ傾向が強いということです 134 00:06:20,042 --> 00:06:24,433 つまり会ったこともないグループの仲間に 影響を受けていたのです 135 00:06:24,643 --> 00:06:25,905 (笑) 136 00:06:25,905 --> 00:06:27,613 すごいですよね? 137 00:06:27,613 --> 00:06:30,560 この結果を見ても まだ分からないことがありました 138 00:06:30,560 --> 00:06:34,878 ただ自分のグループに倣ったのか あるいはそれより深い何かがあるのか? 139 00:06:35,398 --> 00:06:37,213 さらに子どもたちを 何人か連れてきて 140 00:06:37,213 --> 00:06:41,721 マシュマロ実験の後に 子ども2人の写真を見せて 141 00:06:42,071 --> 00:06:43,936 こう言いました「1人の子は 142 00:06:43,936 --> 00:06:47,650 クッキーとかシールとか 物をすぐにもらいたがるけど 143 00:06:47,650 --> 00:06:49,216 もう1人の子は 144 00:06:49,216 --> 00:06:51,821 もっともらえるよう 待とうと思うの」 145 00:06:51,821 --> 00:06:53,113 そしてこう質問します 146 00:06:53,113 --> 00:06:55,128 「どっちの子のほうが好き? 147 00:06:55,128 --> 00:06:57,259 いっしょに遊ぶならどっち?」 148 00:06:57,833 --> 00:07:01,696 この実験から 自分が待つグループだと 思っている子どもは 149 00:07:01,696 --> 00:07:05,902 待つ方の子を好む傾向があると 分かりました 150 00:07:05,902 --> 00:07:10,015 自分のグループの行動を知ったことで 待つことを高く評価するようになったのです 151 00:07:10,958 --> 00:07:12,668 それだけではなく 152 00:07:12,668 --> 00:07:15,071 そのような子どもたちは 実行機能を用いて 153 00:07:15,071 --> 00:07:17,894 待てるようにする作戦を 生み出す傾向がありました 154 00:07:18,184 --> 00:07:21,655 例えば手をお尻の下に敷いたり マシュマロからそっぽを向いたり 155 00:07:21,655 --> 00:07:24,843 歌ったりして 自分の気を紛らわしたのです 156 00:07:24,843 --> 00:07:26,417 (笑) 157 00:07:27,500 --> 00:07:32,071 これらのすべては 状況の重要性を示しています 158 00:07:32,071 --> 00:07:35,569 子どもが持つ実行機能の 優劣の問題ではありません 159 00:07:35,569 --> 00:07:38,976 実行機能を上手く使えるように 状況が手助けしたのです 160 00:07:40,417 --> 00:07:44,038 これは皆さんやお子さんには どんな意味があるのでしょうか? 161 00:07:44,450 --> 00:07:46,906 たとえばスペイン語を 習いたいなら 162 00:07:47,155 --> 00:07:49,082 自分の状況を変えるため 163 00:07:49,082 --> 00:07:52,238 習い事をしたい人達の中に 身を置くと良く 164 00:07:52,753 --> 00:07:55,525 好きな人達だったら さらに良いでしょう 165 00:07:55,905 --> 00:07:59,635 実行機能を用いる動機が より高まります 166 00:08:00,167 --> 00:08:03,676 あるいは子どもが算数の宿題をするよう 手助けしたいのなら 167 00:08:04,446 --> 00:08:07,613 その状況で子どもが 実行機能を使うための戦略を 168 00:08:07,613 --> 00:08:09,571 教えることができます 169 00:08:09,571 --> 00:08:12,456 例えば勉強を始める前に スマートフォンをしまうとか 170 00:08:12,738 --> 00:08:16,249 1時間勉強したら 自分にご褒美をあげるとか 171 00:08:17,083 --> 00:08:20,363 状況が全てだなんて 言うつもりはありません 172 00:08:20,363 --> 00:08:24,863 実行機能はとても複雑で 多くの要素によって形作られるのです 173 00:08:25,213 --> 00:08:27,039 でも心に留めてほしいのは 174 00:08:27,039 --> 00:08:29,446 自分の人生の何かの面における 175 00:08:29,446 --> 00:08:31,821 実行機能を向上させたいなら 176 00:08:31,821 --> 00:08:33,921 その場しのぎにしないことです 177 00:08:33,921 --> 00:08:35,280 状況をよく考えて 178 00:08:35,280 --> 00:08:38,238 どうすれば目指すゴールが より重要に感じられるか 179 00:08:38,238 --> 00:08:40,431 その特定の状況で 自分の助けになる 180 00:08:40,431 --> 00:08:42,874 どんな戦略が使えるかを 考えるのです 181 00:08:43,332 --> 00:08:48,368 古代ギリシャの人が「汝自身を知れ」と 言ったのは まさにそれです 182 00:08:48,738 --> 00:08:53,071 重要なのは 状況がいかに行動に影響するかを知り 183 00:08:53,071 --> 00:08:56,905 改善のためにその知識が どう使えるかを知ることなんです 184 00:08:56,905 --> 00:08:58,331 ありがとうございました 185 00:08:58,331 --> 00:09:01,333 (拍手)