1 00:00:00,875 --> 00:00:02,867 私たち全員が毎日頼りにしている 「あるもの」が 2 00:00:02,867 --> 00:00:06,158 これから失われたり すでに失われたりしています 3 00:00:06,638 --> 00:00:09,318 もちろん鍵のことです 4 00:00:09,542 --> 00:00:11,184 (笑) 5 00:00:11,208 --> 00:00:12,286 というのは冗談で 6 00:00:12,310 --> 00:00:16,039 私がこれから話したいのは 最も重要な感覚のひとつ 視覚です 7 00:00:16,039 --> 00:00:18,723 毎日 私たちはほんの少しずつ 8 00:00:18,723 --> 00:00:20,476 目のピント調節の能力を失っていて 9 00:00:20,476 --> 00:00:22,809 最終的に 全く調節が できなくなります 10 00:00:22,833 --> 00:00:24,993 こういう状況のことを老眼と呼び 11 00:00:24,993 --> 00:00:27,351 世界の20億人が影響を受けています 12 00:00:27,375 --> 00:00:29,518 そう 20億です 13 00:00:29,542 --> 00:00:31,292 もし 老眼の人が身近にいなくて 14 00:00:31,292 --> 00:00:33,491 「その20億人はどこにいるの?」 と思うなら 15 00:00:33,491 --> 00:00:35,643 ここで詳細を話す前に ヒントを出しましょう 16 00:00:35,643 --> 00:00:39,528 老眼鏡や 遠近両用眼鏡をかけるのも 老眼が原因です 17 00:00:39,542 --> 00:00:42,400 始めに 老眼に至るまでどのようにして ピント調節能力が 18 00:00:42,400 --> 00:00:43,964 失われるかについて述べます 19 00:00:43,964 --> 00:00:46,264 生まれたばかりの赤ちゃんは 20 00:00:46,264 --> 00:00:48,351 6.5センチほどの近さまで 目の焦点を 21 00:00:48,351 --> 00:00:49,667 合わせられます 22 00:00:49,667 --> 00:00:52,643 20代半ばまでには その約半分の調整能力の 23 00:00:52,643 --> 00:00:54,125 10センチ程度までになります 24 00:00:54,125 --> 00:00:56,284 まだ 十分近い距離なので その差に気づかないでしょう 25 00:00:56,288 --> 00:00:58,160 しかし 40代後半までには 26 00:00:58,160 --> 00:00:59,871 最も近くても約25センチ 27 00:00:59,871 --> 00:01:00,999 あるいは もっと遠くなるかもしれません 28 00:01:00,999 --> 00:01:02,868 この時点を越えると 29 00:01:02,868 --> 00:01:05,888 読書など近見視力の作業に 影響があらわれ 30 00:01:05,912 --> 00:01:07,667 皆さんが 60歳になる頃には 31 00:01:07,667 --> 00:01:10,042 半径1メートル以内のものが はっきりと見えなくなります 32 00:01:10,042 --> 00:01:12,333 今 皆さんの中には 33 00:01:12,333 --> 00:01:15,667 「彼が話しているのは 老眼になる一部の人たちのことで 34 00:01:15,667 --> 00:01:19,125 自分には関係ないだろう」 と考えている人がいるかもしれません 35 00:01:19,125 --> 00:01:23,583 しかし 違います 文字通り ここにいる皆さん全員が 36 00:01:23,583 --> 00:01:26,809 もし今 そうでなくても いつかは老眼になるのです 37 00:01:26,833 --> 00:01:28,226 厄介だと思われたでしょう 38 00:01:28,250 --> 00:01:31,934 老眼は長いあいだ 人類を悩ませてきました 39 00:01:31,958 --> 00:01:34,514 そして私たちは様々な解決を 試みてきました 40 00:01:34,514 --> 00:01:38,708 例えば 机に向かって 本を読んでいるとしましょう 41 00:01:38,708 --> 00:01:40,083 もし老眼なら 42 00:01:40,083 --> 00:01:42,003 おそらくこのような感じに 見えるでしょう 43 00:01:42,003 --> 00:01:45,083 この雑誌のように 近くのものは何でもぼやけて見えます 44 00:01:45,083 --> 00:01:46,458 解決策を考えましょう 45 00:01:46,458 --> 00:01:48,125 まずは 老眼鏡 46 00:01:48,125 --> 00:01:51,128 老眼鏡のレンズは 単焦点で 近くの物体に焦点が合うように 47 00:01:51,128 --> 00:01:52,625 調整されています 48 00:01:52,625 --> 00:01:55,250 しかし 遠くの物体は 焦点から外れます 49 00:01:55,250 --> 00:01:57,610 つまり 眼鏡を頻繁に 50 00:01:57,610 --> 00:01:59,542 かけたり外したりしなければ いけません 51 00:01:59,542 --> 00:02:02,553 解決策として ベンジャミン・フランクリンが発明したのが 52 00:02:02,553 --> 00:02:04,125 「ダブル・スペクタクル」です 53 00:02:04,125 --> 00:02:06,250 今では 遠近両用眼鏡とも呼びます 54 00:02:06,250 --> 00:02:09,708 遠くを見たい時には 視線を上に 近くを見たい時には 55 00:02:09,708 --> 00:02:11,458 視線を下にすればいいのです 56 00:02:11,458 --> 00:02:14,458 現在は 上下の度数を徐々に変化させ 57 00:02:14,458 --> 00:02:17,083 境目をなくした累進レンズもあります 58 00:02:17,083 --> 00:02:18,542 こうしたレンズの欠点は 59 00:02:18,542 --> 00:02:21,167 どんな距離においても 視界が狭くなってしまうことです 60 00:02:21,167 --> 00:02:23,792 上から下に向かってこのように 分割されるためです 61 00:02:23,792 --> 00:02:25,098 なぜそれが問題かというと 62 00:02:25,098 --> 00:02:28,083 例えば はしごや階段を下りている 場面を想像してみてください 63 00:02:28,083 --> 00:02:31,684 次の足場を確認したくても ぼやけている 64 00:02:31,708 --> 00:02:33,101 なぜでしょう 65 00:02:33,125 --> 00:02:36,583 足元を見下ろす時は レンズの手元用部分で見ますが 66 00:02:36,583 --> 00:02:39,167 手の届かない遠い位置にある次の段は 67 00:02:39,167 --> 00:02:41,292 目からすれば遠方に相当するのです 68 00:02:41,292 --> 00:02:43,498 次にあげる解決法は あまり一般的ではありません 69 00:02:43,498 --> 00:02:46,625 しかし コンタクトレンズや レーシック手術と並んであげられる 70 00:02:46,625 --> 00:02:48,000 モノビジョンというものです 71 00:02:48,000 --> 00:02:50,542 これは 利き目の焦点を遠くに合わせ もう一方を 72 00:02:50,542 --> 00:02:52,157 近くに合わせるというものです 73 00:02:52,157 --> 00:02:54,300 脳は 非常に賢いので それぞれの視野で 74 00:02:54,300 --> 00:02:56,570 最もはっきり見える部分を 組み合わせてくれます 75 00:02:56,570 --> 00:02:58,619 しかし 両目とも少しずつ 違う物を見るため 76 00:02:58,619 --> 00:03:01,335 両目で距離を測るのが 難しくなります 77 00:03:01,335 --> 00:03:03,035 では どうすればいいのでしょう? 78 00:03:03,035 --> 00:03:05,070 様々な解決策を考えてきましたが 79 00:03:05,070 --> 00:03:07,875 いずれも 自然なピント調節を 復元することはできません 80 00:03:07,875 --> 00:03:09,958 見ただけで焦点が合う ということは 81 00:03:09,958 --> 00:03:11,434 期待できません 82 00:03:11,458 --> 00:03:12,833 なぜでしょう? 83 00:03:12,833 --> 00:03:14,125 これを説明するために 84 00:03:14,125 --> 00:03:16,645 まずは 人間の目の構造を 見ていきたいと思います 85 00:03:16,645 --> 00:03:20,125 異なる距離にピントを合わせる 機能を果たす目の部分を 86 00:03:20,125 --> 00:03:21,708 水晶体と呼びます 87 00:03:21,708 --> 00:03:25,583 水晶体の周りには筋肉があり これが水晶体の形状を変え 88 00:03:25,583 --> 00:03:27,708 この形状変化が 度の調節につながるわけです 89 00:03:27,708 --> 00:03:30,208 老眼になるとどうなるのかというと 90 00:03:30,208 --> 00:03:32,458 この水晶体が硬くなり 91 00:03:32,458 --> 00:03:35,027 形状変化ができなくなります 92 00:03:35,027 --> 00:03:38,917 さて これまでに挙げた解決策を もう一度考えてみましょう 93 00:03:38,917 --> 00:03:42,667 すべての解決策にある共通点で しかし 94 00:03:42,667 --> 00:03:44,167 私たちの本物の目とは異なる点 95 00:03:44,167 --> 00:03:46,208 それはどれも度数が固定であり 96 00:03:46,208 --> 00:03:48,875 海賊の義足のようなものだということです 97 00:03:48,875 --> 00:03:52,292 では 視力に対して 現代の義足に 相当するものは何でしょう? 98 00:03:52,292 --> 00:03:55,583 ここ数十年で登場し 急速に発展している 99 00:03:55,583 --> 00:03:58,292 「可変焦点レンズ」と 呼ばれるものがあります 100 00:03:58,292 --> 00:04:00,010 それにはいくつかの種類があります 101 00:04:00,010 --> 00:04:01,833 機械可動型 アルバレス・デュアルレンズ 102 00:04:01,833 --> 00:04:03,292 可変型液体レンズ 103 00:04:03,292 --> 00:04:05,875 そして 電子切り替え型液晶レンズ これらのレンズには 104 00:04:05,875 --> 00:04:07,530 メリットとデメリットがありますが 105 00:04:07,530 --> 00:04:09,621 視覚的な体験については 妥協はありません 106 00:04:09,621 --> 00:04:13,251 どんな距離でもシャープに見える フルビジョンの視界 107 00:04:13,285 --> 00:04:15,792 すばらしい 私たちが求めるレンズは 既に存在するのです 108 00:04:15,792 --> 00:04:17,708 問題は解決したのでしょうか? 109 00:04:17,708 --> 00:04:19,167 そんなに単純ではありません 110 00:04:19,167 --> 00:04:22,163 可変焦点レンズには 少し複雑な問題を伴います 111 00:04:22,163 --> 00:04:25,492 レンズ単体では どの距離に焦点を 合わせればよいのか分かりません 112 00:04:25,492 --> 00:04:27,375 私たちが必要としているのは 113 00:04:27,375 --> 00:04:29,958 遠くを見ると遠くの物がはっきりと見え 114 00:04:29,958 --> 00:04:31,282 近くを見ると 115 00:04:31,282 --> 00:04:32,680 近くの物に焦点が合うよう 116 00:04:32,680 --> 00:04:35,625 自分で考えるまでもなく ピントを合わせてくれる眼鏡です 117 00:04:35,625 --> 00:04:38,167 私がここ数年スタンフォード大学で 取り組んできたのは 118 00:04:38,167 --> 00:04:40,792 レンズにこうした正確な判断力を 搭載することです 119 00:04:40,792 --> 00:04:44,417 私たちの試作品では まず 仮想と拡張現実システムの技術を借りて 120 00:04:44,417 --> 00:04:45,958 焦点距離を推定します 121 00:04:45,958 --> 00:04:48,885 視線追跡機能を用いて 目が見ている方向を判定し 122 00:04:48,885 --> 00:04:52,068 両眼の視線方向を使って 三角測量することで 123 00:04:52,068 --> 00:04:53,319 焦点を推定できます 124 00:04:53,319 --> 00:04:55,360 また 信頼性を高めるために 125 00:04:55,360 --> 00:04:57,193 距離センサーも追加しました 126 00:04:57,193 --> 00:04:58,990 これはカメラになっていて 127 00:04:58,990 --> 00:05:01,281 視界を見渡し 物体との距離を教えてくれます 128 00:05:01,281 --> 00:05:03,380 そして 視線方向を元に 129 00:05:03,380 --> 00:05:05,647 距離の推定値の2つ目が得られます 130 00:05:05,647 --> 00:05:07,727 この2つの推定値を照合して 131 00:05:07,727 --> 00:05:10,227 可変焦点レンズの度を アップデートするという仕組みです 132 00:05:10,227 --> 00:05:13,375 次に私たちが行ったのは デバイスを実際にテストすることでした 133 00:05:13,375 --> 00:05:16,542 老眼の人を100人募り 私たちのデバイスを試用してもらい 134 00:05:16,542 --> 00:05:18,375 性能を測定しました 135 00:05:18,375 --> 00:05:21,667 そして 私たちはこの「autofocals」が 未来の眼鏡だと確信しました 136 00:05:21,667 --> 00:05:25,042 参加者はよりはっきりと物を見たり 素早くピント調節ができるようになり 137 00:05:25,042 --> 00:05:26,919 これまでよりも簡単で より質の高い 138 00:05:26,919 --> 00:05:28,443 視力矯正体験ができたのです 139 00:05:28,443 --> 00:05:30,897 簡単に言うと 視覚に関して「autofocals」は 140 00:05:30,897 --> 00:05:34,057 現在の焦点固定の視力矯正にあるような 妥協は 一切しません 141 00:05:34,057 --> 00:05:36,463 しかし 先走りするつもりも ありません 142 00:05:36,463 --> 00:05:39,085 まだ私たちのチームには やるべき仕事が多く残っています 143 00:05:39,085 --> 00:05:41,793 例えば 私たちのこの眼鏡ですが 少し… 144 00:05:41,897 --> 00:05:42,858 (笑) 145 00:05:42,858 --> 00:05:44,333 大きいかも? 146 00:05:44,333 --> 00:05:47,708 理由の一つは 研究用・産業用の 147 00:05:47,708 --> 00:05:50,542 大きめの部品を用いているからです 148 00:05:50,542 --> 00:05:52,833 もう一つの理由は 視線追跡のアルゴリズムの制約で 149 00:05:52,833 --> 00:05:56,667 眼鏡の全てをしっかりと 固定することが必要だからです 150 00:05:56,667 --> 00:05:58,000 プロジェクトが進み 151 00:05:58,000 --> 00:06:00,500 研究段階から会社設立に向けて 152 00:06:00,500 --> 00:06:02,458 いずれは未来の「autofocals」を 153 00:06:02,458 --> 00:06:05,042 もう少し普通の眼鏡に 近づけていく予定です 154 00:06:05,042 --> 00:06:08,417 これを実現するためには 視線追跡技術の性能を 155 00:06:08,417 --> 00:06:10,583 大幅に向上させる必要があります 156 00:06:10,583 --> 00:06:14,792 また より小型で効率的な電子回路や レンズを採用する必要もあります 157 00:06:14,792 --> 00:06:17,000 とはいえ 現在の試作品でも 158 00:06:17,000 --> 00:06:19,750 可変焦点レンズの技術が 優れた性能を発揮し 159 00:06:19,750 --> 00:06:23,333 従来の固定的な視力補正の性能を 上回ることが 証明できました 160 00:06:23,333 --> 00:06:25,000 あとは 時間の問題です 161 00:06:25,000 --> 00:06:26,983 近い将来 162 00:06:26,983 --> 00:06:30,167 いつ どの眼鏡を使えばいいのか 心配することはなくなり 163 00:06:30,167 --> 00:06:33,378 ただ 大切なものにだけ 焦点を当てられる日が来るでしょう 164 00:06:33,667 --> 00:06:34,824 ありがとうございました 165 00:06:34,958 --> 00:06:37,363 (拍手)