WEBVTT 00:00:06.965 --> 00:00:12.013 アルスターの英雄クー・フーリンは クーリーの浅瀬に立ち 00:00:12.013 --> 00:00:15.513 いまや たった１人で 全軍隊を相手にするところでした― 00:00:15.513 --> 00:00:19.513 それも１頭の雄牛のために NOTE Paragraph 00:00:19.513 --> 00:00:23.620 軍隊を率いていたのは コノートの女王メイヴ 00:00:23.620 --> 00:00:28.129 すさまじい力を持つ白い雄牛を 夫が所有していることに憤怒して 00:00:28.129 --> 00:00:32.027 名高い アルスターの褐色の雄牛を なんとしてでも我がものにしようと 00:00:32.027 --> 00:00:33.557 遠征に乗り出したのです NOTE Paragraph 00:00:33.557 --> 00:00:37.557 アルスターの王は この時 折り悪く決断を下し 00:00:37.557 --> 00:00:41.992 妊娠中の女神マッハに命じ 無理やり戦車競争に参加させました 00:00:41.992 --> 00:00:47.645 その報復に マッハは呪いをかけ 王とその軍隊全員に腹痛を― 00:00:47.645 --> 00:00:53.825 陣痛に似た腹痛を 皆に与えたのです クー・フーリンだけが無事でした NOTE Paragraph 00:00:53.825 --> 00:00:56.515 クー・フーリンは アルスター最強の戦士ではありましたが 00:00:56.515 --> 00:01:02.105 メイヴ女王の軍隊を一度に相手にすることは できないと分かっていました 00:01:02.105 --> 00:01:05.105 彼は一騎打ちという聖なる習わしを求め 00:01:05.105 --> 00:01:08.575 侵入者と１人ずつ戦えるようにしました 00:01:08.575 --> 00:01:10.785 ところが メイヴ女王の軍隊が 迫るにつれて 00:01:10.785 --> 00:01:15.555 待ち構える大仕事よりも あることが彼の心にかかっていました NOTE Paragraph 00:01:15.555 --> 00:01:19.325 何年も前のこと クー・フーリンは スコットランドに出向き 00:01:19.325 --> 00:01:22.739 名声轟かせる戦士スカアハのもとで 修行をしていました 00:01:22.739 --> 00:01:27.475 そこで 彼はある若い戦士に出会いました コノート出身のフェル・ディアドです 00:01:27.475 --> 00:01:32.497 ２人は共に暮らし 共に修行に励み やがて親友になりました NOTE Paragraph 00:01:32.497 --> 00:01:35.187 それぞれの故郷に帰ってみれば 00:01:35.187 --> 00:01:39.719 クー・フーリンとフェル・ディアドは 敵対する陣営に属することとなりました 00:01:39.719 --> 00:01:43.953 彼には分っていました　フェル・ディアドが メイヴ軍の一味として進軍を続けていて 00:01:43.953 --> 00:01:46.473 自分が相手を倒し続ければ 00:01:46.473 --> 00:01:48.573 いずれはフェル・ディアドに 出会うということを NOTE Paragraph 00:01:48.573 --> 00:01:53.513 来る日も来る日もクー・フーリンは アルスターを１人で守り続けました 00:01:53.513 --> 00:01:57.513 とった敵の首は メイヴ女王の陣営に送ることもあれば 00:01:57.513 --> 00:02:01.043 浅瀬の流れに 運ばれていくこともありました 00:02:01.043 --> 00:02:06.464 時にはトランス状態に入り 何百もの兵を次々斬り伏せました 00:02:06.464 --> 00:02:10.464 女王の姿が遠くに見えれば 毎回 石を投げつけました 00:02:10.464 --> 00:02:12.114 命中することはありませんでしたが 00:02:12.114 --> 00:02:17.001 １回だけ 女王の肩にいたリスに当たり はたき落としおおせました NOTE Paragraph 00:02:17.001 --> 00:02:20.371 コノートの陣営では フェル・ディアドが身を潜めていました 00:02:20.371 --> 00:02:25.971 親友を相手取って戦う羽目から逃れようと あらゆる手を尽くしていたのです 00:02:25.971 --> 00:02:29.581 しかし女王のほうでは 雄牛を早く手に入れたい思いが募り 00:02:29.581 --> 00:02:33.822 クー・フーリンへの勝ち目が一番大きい戦士が フェル・ディアドであることを知っていました 00:02:33.822 --> 00:02:36.712 そこで彼をしきりに駆り立て 彼の名誉を問うて 00:02:36.712 --> 00:02:40.582 戦わざるを得ないところまで 追い込みました NOTE Paragraph 00:02:40.582 --> 00:02:46.046 ２人は浅瀬で対決しました 力も技も互角の関係― 00:02:46.046 --> 00:02:48.816 どんな武器を手にしても 拮抗状態でした 00:02:48.816 --> 00:02:54.078 ３日目に入ると フェル・ディアドが 優勢になりつつありました 00:02:54.078 --> 00:02:56.928 クー・フーリンは疲れきっていたのです NOTE Paragraph 00:02:56.928 --> 00:03:00.928 ところがクー・フーリンには あと１枚 切り札が残されていました 00:03:00.928 --> 00:03:05.322 彼らの師スカアハが クー・フーリンにだけ伝授した秘伝の奥義です 00:03:05.322 --> 00:03:09.322 彼女が教えたのは 「ゲイ・ボルグ」の召喚― 00:03:09.322 --> 00:03:15.872 海底に横たわる海獣の骨から作られた 魔法の槍を召喚する技でした 00:03:15.872 --> 00:03:22.565 クー・フーリンは槍を召喚し フェル・ディアドを刺し殺し 彼も倒れました NOTE Paragraph 00:03:22.565 --> 00:03:26.826 その機会を捉えたメイヴ女王は 残りの軍隊もろともに 00:03:26.826 --> 00:03:29.146 褐色の雄牛を捕まえようと 攻め入りました 00:03:29.146 --> 00:03:33.359 その時ようやく アルスターの軍隊は 呪術による病気から回復しつつあり 00:03:33.359 --> 00:03:35.979 女王の軍に殺到し 追撃しました 00:03:35.979 --> 00:03:40.476 しかし時はすでに遅く メイヴ女王は傷ひとつ負わず 00:03:40.476 --> 00:03:43.406 褐色の雄牛を引きずって 国境を越えていました NOTE Paragraph 00:03:43.406 --> 00:03:47.046 帰還したメイヴ女王は 改めて戦いを挑みました 00:03:47.046 --> 00:03:52.030 今度は彼女の褐色の雄牛と 夫の白い雄牛との対決です 00:03:52.030 --> 00:03:55.870 雄牛２頭の力は伯仲 戦いは夜までもつれ込み 00:03:55.870 --> 00:03:59.880 アイルランド全土にわたって 互いを引きずり合いました NOTE Paragraph 00:03:59.880 --> 00:04:03.590 ついに褐色の雄牛は白い雄牛を殺し 00:04:03.590 --> 00:04:07.774 メイヴ女王はようやく満足を得ました 00:04:07.774 --> 00:04:11.144 しかし褐色の雄牛にとって 勝利はなんの意味もありませんでした 00:04:11.144 --> 00:04:15.634 疲れ 傷つき 絶望していました 00:04:15.634 --> 00:04:20.826 ほどなくして彼も失意のうちに死に 後に残されたのは 00:04:20.826 --> 00:04:26.016 メイヴの戦争のために 長い間 荒廃したままとなる地でした