WEBVTT 00:00:07.498 --> 00:00:11.766 おかゆのお代わりを欲しいと頼む お腹をすかせた孤児 00:00:11.766 --> 00:00:15.361 ぼろぼろになった花嫁衣装に身を包んで 老いゆく独り身の女性 00:00:15.361 --> 00:00:20.468 クリスマスの過去の亡霊に取り憑かれる 心の冷たい守銭奴 00:00:20.468 --> 00:00:22.676 その死後 100年以上が経った今でも 00:00:22.676 --> 00:00:27.358 チャールズ・ディケンズの作中人物として 人々の記憶に残っています 00:00:27.358 --> 00:00:32.067 非常に印象深い作風ゆえに その名が形容詞にさえなっています 00:00:32.067 --> 00:00:36.729 しかし どんな特徴がディケンズの作品を そこまで特別なものにしているのでしょう? NOTE Paragraph 00:00:36.729 --> 00:00:40.798 ディケンズの小説は 不気味な設定やどんでん返しや 00:00:40.798 --> 00:00:43.379 謎に満ちており 読む者を大いに期待させます 00:00:43.379 --> 00:00:46.938 こうした特徴によって 読者の好奇心がそそられるのです 00:00:46.938 --> 00:00:50.286 発表当時 ディケンズの作品は 連載小説でした 00:00:50.286 --> 00:00:55.515 つまり安価で手に入る文芸誌に 一度に数章ずつ発表され 00:00:55.515 --> 00:00:58.621 本として再版されたのは 連載後のことです 00:00:58.621 --> 00:01:01.621 これによって はらはらさせる終わり方や 00:01:01.621 --> 00:01:04.412 驚くべき事実の暴露をめぐって 熱を帯びた憶測を呼びました NOTE Paragraph 00:01:04.412 --> 00:01:08.116 連載小説であったことにより 幅広い読者に読まれ 00:01:08.116 --> 00:01:09.623 また読み続けられたばかりでなく 00:01:09.623 --> 00:01:13.407 作者自身についても 騒ぎ立てられるようになりました 00:01:13.407 --> 00:01:16.955 ディケンズが特に人気を博した 彼のウィットは 00:01:16.955 --> 00:01:21.225 風変わりな登場人物や 皮肉な筋書きに表れています 00:01:21.225 --> 00:01:24.996 ディケンズの登場人物は 人間の行為の不条理を露呈しており 00:01:24.996 --> 00:01:29.268 登場人物の名前にはしばしば 特徴や社会的地位が表されています 00:01:29.268 --> 00:01:31.966 虐げられている ボブ・クラチットや 00:01:31.966 --> 00:01:33.997 卑屈なユライア・ヒープ 00:01:33.997 --> 00:01:37.786 陽気なセプティマス・クリスパークルなど NOTE Paragraph 00:01:37.786 --> 00:01:42.095 ディケンズは多彩な登場人物を 綿密な社会背景のもとに描き 00:01:42.095 --> 00:01:44.623 現実社会を反映させました 00:01:44.623 --> 00:01:46.257 例えば ディケンズはしばしば 00:01:46.257 --> 00:01:49.276 産業革命がもたらした変化を 考察しました 00:01:49.276 --> 00:01:50.647 この時代 00:01:50.647 --> 00:01:55.207 低い階級の人々は ひどい労働環境と 生活環境下に置かれていました 00:01:55.207 --> 00:01:58.620 ディケンズ自身 子供時代に この苦労を経験しています 00:01:58.620 --> 00:02:01.850 ディケンズは父親が 借金で刑務所に入れられたために 00:02:01.850 --> 00:02:05.061 靴墨工場での労働を 強いられたのです 00:02:05.061 --> 00:02:09.518 この経験は『リトル・ドリット』での マーシャルシー刑務所の描写に影響し 00:02:09.518 --> 00:02:13.868 主人公リトル・ドリットが 収監された父親を見舞う場面があります NOTE Paragraph 00:02:13.868 --> 00:02:18.310 刑務所や孤児院やスラム街は 作品の舞台としては恐ろしく思えますが 00:02:18.310 --> 00:02:20.300 こうした舞台のおかげで 00:02:20.300 --> 00:02:24.080 社会で見過ごされがちな人々の暮らしを 描き出すことができたのです 00:02:24.080 --> 00:02:25.449 『ニコラス・ニクルビー』では 00:02:25.449 --> 00:02:29.270 ワックフォード・スクィアーズ校長のもとで ニコラスは職を得ます 00:02:29.270 --> 00:02:33.101 ニコラスは やがてスクィアーズが 詐欺師であることに気づきます 00:02:33.101 --> 00:02:36.544 親たちが望まぬ子供を 有料で預かって 00:02:36.544 --> 00:02:39.849 暴力と搾取の対象にしていたのです 00:02:39.849 --> 00:02:43.979 『オリヴァー・ツイスト』も 国家の保護を受ける子供の窮状を扱い 00:02:43.979 --> 00:02:46.490 救貧院の容赦のない状況を 描いています 00:02:46.490 --> 00:02:50.040 オリヴァーがバンブルに 食事をねだる場面です 00:02:50.040 --> 00:02:55.090 オリヴァーはロンドンに逃げると 犯罪がはびこる暗黒街に引きずり込まれます NOTE Paragraph 00:02:55.090 --> 00:02:57.860 これらの物語は ヴィクトリア朝時代の生活を 00:02:57.860 --> 00:03:00.190 薄汚く 腐敗して 残酷なものとして描きます 00:03:00.190 --> 00:03:03.760 しかし ディケンズはこの時代を 古き伝統が消えつつある時代であるとも 00:03:03.760 --> 00:03:05.658 捉えていました 00:03:05.658 --> 00:03:08.541 ロンドンは現代の世界が 育まれる場となっており 00:03:08.541 --> 00:03:12.591 産業や貿易 社会的地位の移動に 新たなパターンが生まれていたのです 00:03:12.591 --> 00:03:16.131 それゆえ ディケンズの描くロンドンには 二面性があります 00:03:16.131 --> 00:03:21.368 厳しい世界でありながら 驚異と可能性にも満ちているのです NOTE Paragraph 00:03:21.368 --> 00:03:24.107 例えば 『大いなる遺産』における謎は 00:03:24.107 --> 00:03:26.521 ピップの可能性をめぐるものです 00:03:26.521 --> 00:03:30.061 彼は低い身分に置かれた孤児でしたが 匿名の篤志家に見いだされ 00:03:30.061 --> 00:03:32.700 社交界に送り込まれます 00:03:32.700 --> 00:03:34.289 自らの目標を探すうちに 00:03:34.289 --> 00:03:37.690 ピップは他人の思惑の 犠牲者となり 00:03:37.690 --> 00:03:40.817 いかがわしい人々を うまく切り抜ける必要に迫られます 00:03:40.817 --> 00:03:43.250 ディケンズの多くの主人公同様 00:03:43.250 --> 00:03:46.769 哀れなピップの立場は 常に不安定です 00:03:46.769 --> 00:03:49.278 ディケンズ作品を 00:03:49.278 --> 00:03:51.269 読者が最も楽しめるのは 00:03:51.269 --> 00:03:54.765 登場人物が最も苦しんでいる時であるのは そのためです NOTE Paragraph 00:03:54.765 --> 00:03:58.719 ディケンズは一般的に はっきりした結末を描きますが 00:03:58.719 --> 00:04:02.449 『エドウィン・ドルードの謎』は例外です 00:04:02.449 --> 00:04:07.390 この小説は謎めいた状況での 孤児エドウィンの失踪を描きます 00:04:07.390 --> 00:04:10.429 しかし 小説が完結する前に ディケンズが亡くなり 00:04:10.429 --> 00:04:13.619 謎解きに関するメモも 残されていませんでした 00:04:13.619 --> 00:04:18.761 読者は なおも白熱した議論を交わし ディケンズの考えた殺人犯は誰か 00:04:18.761 --> 00:04:23.560 そもそもエドウィン・ドルードは 殺害されたのかと考えを巡らせています NOTE Paragraph 00:04:23.560 --> 00:04:25.111 様々に翻案され 00:04:25.111 --> 00:04:26.260 多くのオマージュや 00:04:26.260 --> 00:04:27.866 再版がなされる中 00:04:27.866 --> 00:04:31.285 ディケンズの生き生きとした言葉と 俯瞰的な世界観は 00:04:31.285 --> 00:04:33.360 なおも人々を惹きつけます 00:04:33.360 --> 00:04:35.340 現在では 「ディケンジアン」 という形容詞は 00:04:35.340 --> 00:04:38.592 惨めな労働環境や 生活環境を表します 00:04:38.592 --> 00:04:43.127 しかし 小説を「ディケンジアン」と 称することは賞賛です 00:04:43.127 --> 00:04:46.931 というのも その物語では 真の冒険や発見が 00:04:46.931 --> 00:04:49.722 思いも寄らないところで起こることを 示唆しているからです 00:04:49.722 --> 00:04:52.512 ディケンズはしばしば 希望のない題材を扱いましたが 00:04:52.512 --> 00:04:57.972 彼の鋭いウィットは 暗闇の中に常に光を見いだしています