海底の龍宮で
四海竜王たちが
恐怖に慄いておりました
目の前では
美猴王の異名を持つ孫悟空が暴れていました
この伝説の厄介者は岩から生まれ
仙人の術を修め
東海竜王の秘宝である如意棒を
目下振り回していました
この如意棒は
もともと大洪水の水深を
測れるくらい大きいのですが
今は孫悟空の命令に従い
触れた途端 縮みました
この圧倒的な力に怯えて
四海竜王たちは如意棒を
孫悟空が持つのを許しました
孫悟空は如意棒をしまい
仲間である戦士の猿たちに
戦利品を見せびらかそうと
上機嫌で自分の国へと
駆け戻っていきました
贅沢な宴席の後
孫悟空は深い眠りに落ちました
夢を見始めたのですが
すぐに2つのことを悟りました
まず これがただの夢ではないということ
2つめに
そこに誰かがいるということです
いきなり 不気味な2つの影に
捕まったのですが
初めのうちは
誰なのか分かりませんでした
しかし 鬼門関の方に
引きずられて行ったので
孫悟空は死を迎えているのだと
気付きました
彼らの役目は
死期の近づいた魂を
幽冥界に連れてくることでした
ここは冥界の十王たちが治める国でした
十王たちは 情け容赦なく魂を裁き
恐ろしい罰を与えていました
孫悟空の眼下には 幽冥界が広がり
幽冥界の宮殿や
忘川河にかかる
伝説の奈何橋が見えました
この橋の番人の孟婆は
立派な行いをした魂には孟婆湯を与え
飲んだ魂は生前の記憶を忘れて
新たな姿を得て
元の世界へと戻りました
橋の最下層には
生まれ変わるに値しない魂がいました
入り組んだ地獄では
不幸な魂が 針の山から血の池や
煮えたぎった油の釜茹まで
無限に続く罰に耐えていました
しかし 孫悟空は拷問も転生も
受け入れようとはしませんでした
官吏が孫悟空を鬼門関の中へと
引きずりこもうとしたので
孫悟空は如意棒をサッと取り出して
手中から逃れました
孫悟空の喊声や武器がぶつかる音は
幽冥界中にこだましました
騒ぎを感じた冥界十王たちが
突然襲ってきましたが
死期の近づいた魂に これ程
抵抗されたことはありませんでした
この並外れた生き物は何なのか?
人間か? 神か?
別の何かなのか?
冥界十王たちは閻魔帳―
生きとし生けるもの寿命を記した
巻物を調べました
冥界十王たちは
この奇妙な生き物の分類が分からず
孫悟空の名前を探すのに
手間取りましたが
孫悟空の方は
調べる箇所が分かっていました
残念ながら
十王たちの言葉どおりでした
孫悟空の命は
まさに今夜尽きようとしていたのです
しかし 孫悟空は恐れませんでした
英知と力の探求の道のりにおいて
自分の運命に抗うのは
全くの初めてではありませんでした
数々の抗いによって 孫悟空は
変化(へんげ)の術や
神速で飛ぶ觔斗雲の法を体得し
神通力と武術で仲間を支配してきました
このたびの難局でも孫悟空は
術を使う好機を見出していました
指をサッと動かして
孫悟空は閻魔帳から
自分の名前を消しました
冥界十王たちが反応する前に
孫悟空は仲間の猿の名前も
見つけて消しました
死の運命を免れた孫悟空は
現世に戻るため 戦いを始めました
孫悟空は幽冥界の外へと出て行く前に
怒り狂った冥界の大軍を
巧みに打ち負かしました
地面に落ちる寸前に
孫悟空は寝台で目を覚ましました
初めはあれは夢だと思ったのですが
孫悟空は頭のてっぺんから
尻尾の先まで
新しい不老不死の力を感じました
勝利の雄叫びをあげて
仲間の猿たちを起こし 冒険談を聞かせ
また宴会を始めました